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レンベル・ヤワルカーニが語る、先住民族としてアートをつくる意味。「アートは先住民族の声を届けるためのツール」【2/3ページ】

アートは「信じる行為」

山本 日本の場合、「八百万の神」という伝統的な考え方がありますが、やはり現代の日常のなかで忘れられがちです。「Myth In Motion」展に出展されているレンベルさんの作品を拝見し、「神話」というもののとらえ方が広がりました。神話というと、どこか普遍的で固定化された「大文字の」物語というイメージでとらえがちですが、神話から発想されたレンベルさんの作品に描かれている世界は、より生き生きとした、現代の世界を別様に照らし出すようなもので、私も大きな感銘を受けました。西洋中心的で近代的な合理性に依拠する「科学」とは異なる仕方で、私たちが生きているこの世界の姿を、とりわけその見えにくい姿に光を当てているように感じす。そのいっぽう、近年では「科学」という領域自体を根底から見直すような動きも続けられており、「神話」と「科学」という二元論が有効性を失いつつあるようにも思います。

 先祖から口承伝承を通じて受け継がれた数々の神話に着想を得ながら、レンベルさんご自身のイマジネーションを膨らませていくかたちで作品をつくっていくそうですね。そこには、レンベルさんや私が生きる現代の世界に対する洞察や批評も含まれてくるのだと思います。発想から完成まで、レンベルさんがひとつの作品をつくりあげるプロセスについて教えていただけますか?

ヤワルカーニ まず作品に取り掛かるとき、キャンバス、背景、神話などすべてを準備します。完全な一つの物語ではなく、様々な神話の異なるパートです。そして重要なのが「人物像」です。ウイトト族における人間の最初の形とは、アマゾンで生きるすべての生き物──つまり植物であり木々であり花々であり魚であったとされています。その何千年も紡がれてきた私たちの形を想像し始めることからスタートするのです。

 絵を描くとき、もうひとつ重要なのは祖父母たちが何を描きたかったのか、ということです。先住民族のアートはひとりのアーティストによるものではなく、コレクティヴなアートです。西洋絵画はキャンバスがありアーティストがいる。しかし私たちのアートはキャンバスがあり、私があり、神話があり、神々があり、そして祖父母がある。宗教的なプロセス 知識をキャンバスという物質を通して伝えることであり、そこに向かうまでに至った経緯がすべて含まれるわけですから、難しい作業になるわけです。

 私にとってアートは、信じる行為なのです。祖父母やその言葉、知識、美的感覚を。絵を描き始めたときから、絵画は信じることでした。黒くて暗い背景は先祖の声を伝える可能性であり、一つひとつの線が先祖の声なのです。

山本 レンベルさんの絵画は、黒を背景色としているものが多いように思います。そこにアクリル絵具を使って繊細なタッチで描かれる多様なモチーフは、鑑賞者の心をぐっとつかむものです。また、黒の背景の上に異なるトーンの黒で描かれた模様も、たいへん美しいと思いました。黒の背景が多い理由には、何か重要な意味があるのでしょうか?

ヤワルカーニ おっしゃる通り黒には大きな意味があります。ウイトト族の主たる神である「ブイナイマ」が世界をつくる前、そこには闇・水・寒さの3つしかありませんでした。その上にブイナイマがすべてのものをつくったのです。ですから私にとって「黒」という色は、新しいものをつくりだす可能性を示すものなのです。

 また黒は密林の暗い夜も意味します。密林の夜にはじつに様々な生き物がおり、ただの怖い空間ではなく、新しい生命を生み出す空間です。また植物の神々が私たちを癒してくれる時間でもあります。そういう意味では夜は重要であり、昼間には見えない世界とつながることができるです。

山本 カヌーや龍など、何者かを乗せて「移動」するモチーフが多いことも印象的でした。レンベルさんの作品がつくりだす世界では、「移動」はどのような意味を有する行為なのでしょうか。

ヤワルカーニ 私たちにとってカヌーは生存につながる構造物、侵略や迫害、飢餓から自分たちを守るためのものだったのです。絵の中に出てくるカヌーや植物、ドラゴンは、私たちの宇宙観の一部です。私たちにとって神々は今現在も生きた存在であり、過去のものではないのです。

山本 レンベルさんの作品の背後には、ひとつひとつに精密に練り上げられた物語があると感じます。しかし、もっとも壮大な物語を感じさせるのが、「Myth In Motion」展の目玉でもある《The Territory of my ancestors》(2024)ではないでしょうか。この作品の背後にある物語を聞かせていただけますか? またレンベルさんの絵画には、人間以外の動物や精霊が頻繁に登場します。そこには、この世界の上に複数のレイヤーがあり、その下にも複数のレイヤーがあるという独自の世界観があるとうかがいました。レンベルさんの絵画の基盤を形成している、この世界観についても説明いただけますか?

ヤワルカーニ ウイトトの世界では物質的領土と、神々が存在する精神的領土というの2つの領土が存在しています。このうち、先祖から受け継いだ物質的な領土は、いまや森林伐採や開発によって脅かされています。これまで先住民族は自然と良好な関係を築いてきました。しかし、この物質的領土が危機に瀕しており、それがなくなると、精神的領土も消えてしまう。どちらかだけが存続することはなく、お互いがお互いを内包しているのです。

《The Territory of my ancestors》(2024)

 ウイトトの世界には、全部で14のレイヤーがあり、それぞれに神がいます。例えば「空の6番目の層」にはブイナイマの家があります。祖母から聞いた話では、その家の周囲には世界中の病を癒す薬草が生えており、日が暮れもせず明けもしない世界だといいます。それを伝えるための色として、私はターコイズを使用しているのです。ちなみにブイナイマは7番目の層に住んでおり、そこは水の世界です。キリスト教の世界観とは違い、ウイトトの神は上ではなく下にいます。

 ちなみにタバコやコカの葉がとても重要な存在であり、これらを使うことで14の層にアクセスできるのです。私たちはリスペクトを込めてそれらを「ふたつのおじいさん」と呼んでいます。このように、絵の中に描かれているのは先祖から受け継いだ経験であり、魔法のような宗教観であり、いまも息づくものなのです。

編集部

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