声を届けるためのアート
山本 このお話を聞いて作品をあらためて見ると様々な気づきがありそうです。非先住民の側に立つ者として、私は先住民への侵略と簒奪の歴史をけっして忘れてはならず、そして現在まで継続される迫害に対して早急に改善を進めていく責任を有していると考えます(先住民族であるアイヌの人々に対して、日本では長らく法的・制度的・社会的差別が継続され、それらは今でも残っています。また、アイヌの人々に対するヘイトスピーチを含む、非先住民による差別や偏見も顕著です)。そうした自覚なしに様々な先住民の文化や知識を称揚することは、また別のかたちで簒奪を行うことに等しいです。
他方、そのことをしっかりと踏まえたうえで、「Myth In Motion」展で試みられているように、「先住民族のアート」という一枚岩的なくくりから、さらに歩みを進めることは重要なステップです。その意味で、イギリス、イラン、アメリカなどトランスナショナルなルーツを有し、複数の視覚的伝統からのインスピレーションを受けて作品を制作する非先住民のアーティストであるコア・ポア氏との二人展は興味深いと言えます。ポア氏との二人展の経験、あるいはポア氏の作品とご自身の作品との共通点・相違点について、どう思われましたか?
ヤワルカーニ まず、いままでの歴史のステレオタイプ、差別や掠奪を認識せずに先住民族の「サンプル」だけを見ることは意味がないという山本さんの言葉に強く共感します。私がこうして画家として仕事する目的は、ユーロセントリックな思想を打ち破ることです。先住民族にはアートができないという差別的な考えがペルーには広がっており、法や制度のなかにも社会的な排除が入り込んでいます。だからこそ、私はミュージアムやアートフェア、ビエンナーレといった、「それがアートかどうかを決める空間」に自分の作品を展示することに興味を持っており、コアポアと一緒に仕事ができたことで、社会的なステレオタイプを壊すことができたと思います。
今回の空間は、私たちが現代に生きる存在としての価値を与えてくれた。先祖の知識を広めることを許してくれた。アートは先住民族に声を与えてくれる力強いツールであり、何世紀にも渡り否定されてきた存続を認めてくれるものです。先住民族の現代アートが、世界のアーティストと一緒に展示できたことで、私たちのコンセプトを広げてくれたと思います。私たち先住民族を、人類学は研究対象として、歴史学は過去のものとして見ています。しかし、アートのみが生の声を届ける機会を与えてくれたのです。
コラボレーションによって私たちの神話は生き続けることができる。それは文化機関やギャラリーの責任でもあるでしょう。そうすることで文化的対話がうまれ、共存できるのです。
山本 最後に、これからのご活動について展望を聞かせていただきたいです。今、取り組んでいる作品や主題はありますか? あるいは、やってみたいプロジェクトがあれば教えてください。
レンベル いまは大学やミュージアムとのディスカッションに多く参加しています。先住民の知識や美意識の盗用が現代美術やアカデミズムの場でも起きており、何世紀にも渡り先住民に多くの害を与えてきました。価値を知る人々が、それを知らない先祖たちから奪っていったのです。私はその不平等を訴えようとしています。今年は絵画の個展も11月30日からブエノスアイレスで、来年にはロンドンとミラノでも開催予定です。神話のみならず、もっと強いメッセージ性がある絵画を展示する予定です。