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レンベル・ヤワルカーニが語る、先住民族としてアートをつくる意味。「アートは先住民族の声を届けるためのツール」

南米のアマゾンのウイトト族にルーツを持ち、第60回ヴェネチア・ビエンナーレにも参加したレンベル・ヤワルカーニ。コア・ポアとの2人展となった「Myth In Motion」展(KOTARO NUKAGA六本木)に際し、同氏にインタビュー。先住民族としてアートを生み出す意義やそこに込めた思いを聞いた。

聞き手=山本浩貴

レンベル・ヤワルカーニ

アートは祖父母の声

山本浩貴(以下、山本) 現在、レンベルさんはヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展に参加中です。ビエンナーレへの参加は、これが初めてだと聞いています。レンベルさんはペルー北部・南米アマゾンの先住民族であるウイトトにルーツを有していらっしゃいます。今回のヴェネチア・ビエンナーレでは、国ごとに与えられる賞は、その土地の先住民族であるカミラロイとビガンブルにルーツを有するアーティスト、アーチー・ムーア氏の個展を開催したオーストラリア館が金獅子賞を受賞、作家ごとに与えられる賞は、ニュージーランドに拠点を置く、先住民族・マオリの女性アーティストによって結成された「マタオ・コレクティヴ」が受賞しました。また、日本では『美術手帖』誌の2024年7月号では「先住民の現代アート」特集が組まれ、私も論説を寄稿しています。このようなことからも、あえて「良かれ悪しかれ」という枕詞を付したいのですが、世界各地の先住民(族)のルーツを有するアーティストたちがグローバルな注目を集めていることがわかります。しかし、日本の先住民族であるアイヌのルーツを有するアーティスト・パフォーマーのマユンキキ氏が指摘するように、民俗も文化も異なる人々を「先住民アート」という名称でひとくくりにすることに対しては批判的な意識を持つ必要があり、また、同時にマジョリティ(この場合、「非先住民」)としての過去の侵略の歴史(そして、現在も続く構造的な不公正)を正しく認識することが不可欠です(プレミアム会員限定ではありますが、マユンキキさんの長編インタビューがウェブ版美術手帖に掲載されています。また、「先住民の現代アート」を特集した2024年7月号美術手帖本誌では、そのダイジェスト版のインタビューを読むことができます。ぜひ、本インタビューと併せてご覧いただきたいです)。

 そのようなことを踏まえ、いっぽうでは自らの重要なアイデンティティの一部をなす先住民族・ウイトトの伝統から深い影響を受けながら、他方で特異な・独自の展開を見せるレンベルさんの芸術実践の、その両義性を、このインタビューのなかでしっかりととらえていきたいと考えています。よろしくお願いします。

 最初に、アーティストとしての活動を始めたきっかけについてうかがいたいです。レンベルさんは、祖父母の代から長く美術制作を生業とする家庭に生まれたとうかがっています。そのようなバックグラウンドのなか、レンベルさんがアーティストになったのは自然の流れだったのでしょうか? それとも、何かアーティストとして生きていくと決意したきっかけのようなものがあったのですか?

レンベル・ヤワルカーニ(以下、ヤワルカーニ) こちらこそありがとうございます。私としては作品の意味を伝えるいい機会であり、先住民族から受け継いだ知識もお伝えできることが嬉しいです。

 西洋と先住民族の世界の関係は非常に縦型であり、一方的な暴力、押し付けの関係です。そのなかで、私たちの精神世界は完全に破壊されてしまいました。私はそれをアートで抗議するかたちを見つけたのです。私たちのアイデンティティや物理的・精神的領土を奪った世界で表現するために、私はアートの道を選んだのです。

 アート活動によって、自分たちは何者であり、どこからきてどこへ行くのかを自由に発言できます。アートは先住民族にとっての声を届けるためのツールであり可能性なのです。そうした声は、何世紀にもわたり人類学者、歴史学者たちに乗っ取られてきました。アートで彼らによって築かれた先住民族のステレオタイプを壊すための可能性を感じているのです。

 いまの先住民のアートは力強い声を持っており、それは祖父母の声なのです。ラテンアメリカの絵画は先住民の知識や記憶が表現されており、美的なだけではなく歴史的な記憶や領土を鑑賞することになるのです。先祖たちが絵を通して語っているのです。

山本 日本は西洋ではありませんが、アジアを植民地化し、領土を奪った歴史があります。そういう意味でも、あなたの作品が日本で紹介されることは重要だと思います。「Myth In Motion」展に際し、初めて来日されたと聞きました。来日中に上野の国立博物館・すみだ北斎美術館・刀剣博物館などの美術館・博物館を訪れ、浮世絵や刀剣といった日本の伝統的な文化についても実際に目にされたそうですね。それらの経験についても、どのような感想をもたれたか教えてください。それらの経験は、今後、レンベルさんの芸術実践にも活かさせそうでしょうか?

ヤワルカーニ 日本の文化や歴史、宇宙観や神話に好奇心を持っていましたからすごく楽しかったです。日本にも各所に神々や精霊がいますが、これは私たちと同じであり、地球の正反対の地で共通点があることに興味を待ちました。歴史的な場所に行ったことは、作品のイマジネーションや造形に大きな影響を与えてくれると思います。歴史観はグローバル化されたいまのルーツに接続したアイデンティティを強化してくれるものだと思っています。やはり日本にも現代の宗教感が息づいていて、印象的でした。

編集部

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