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2023.5.3

先住民族サーミや女性芸術家への注力も。清新な変化を遂げたノルウェーの国立美術館

2022年6月11日にノルウェーの首都・オスロで立地を新たに開館した北欧・ノルウェーの国立美術館。同館はハードとソフトの両面で大きく変化を遂げ、大きな注目を集めている。

文=早川瑠里子

Photo by Borre Hostland
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 オスロ国立美術館が約3年半の休館を経て、ノーベル平和センターやオスロ市庁舎が建ち並ぶウォーターフロントエリアに移転。リニューアルオープンした。同館は、2003年にナショナル・ギャラリー(近代美術以前を取り扱う国立美術館)、建築博物館、工芸博物館、現代美術館の4館が統合して設立されたもので、新美術館では所蔵する美術・建築・デザイン/工芸のコレクションを主とした展示となっている(ちなみに同館の建築コレクションは、オスロ市内の別の場所にある建築博物館にても引き続き展示されている)。1階はデザインと工芸のコレクション展(一部に企画展スペース有り)、2階は美術のコレクション展(建築に関する展示室も設置)、3階は企画展に利用されている。

Photo by Iwan Baan

展示デザインやインタラクティブなアクティビティを駆使

 新美術館は展示デザインやインタラクティブなアクティビティを駆使しており、多様な来場者に向けた展示が特徴的だ。

 ノルウェーに伝わる民話に関連する作品を集めた展示室64では、天井まで届く高さのある木のオブジェをスペースの中央に展示。照明は暗めで、おとぎ話を連想させるようなサウンドが流れている。まるで民話の世界に入り込んだかのような感覚を抱くだろう。木のオブジェの幹の部分には幾つか丸い穴が開いており、覗き込むと、19世紀後半にペーター・クリステン・アスビョルンセンとヨルゲン・モーによって収集された民話集『ノルウェーの民話』の挿絵をデジタル複製した画像が見える。覗き込むという動作は人間誰しも好奇心をかき立てられるものだ。このように新美術館では斬新な展示デザインにより、ユニークな鑑賞体験を提供しており、子供から大人まで幅広い来場者層に向けた展示と言えるだろう。

 展示室64には、ノルウェーの画家テオドール・キッテルセンがノルウェーに古くから伝わる水の精霊ノッケンを描いた《水の精霊(The Water Sprite)》(1904)などの作品が並ぶ。

展示室64の展示風景 Photo by The National Museum
テオドール・キッテルセン 水の精霊 1904 Photo by Jacques Lathion/The National Museum

 ほかの展示室でもサウンドを取り入れ、視覚だけではなく聴覚も刺激してくれる。展示室47では1850~1870年に制作された風景画が展示されており、ノルウェーの画家アウグスト・カペレンらが描いた神秘的な原生林の風景は、展示スペースに流れる音楽との調和を見せる。鑑賞者は中央に設けられたベンチに座り、この神秘的な雰囲気に浸ることができるのだ。美術鑑賞といえば静寂な環境であることが一般的だが、そのような常識にとらわれず自由な発想でつくり上げられた展示は、新しい鑑賞体験を生み出している。

展示室47の 展示風景 Photo by Ina Wesenberg/The National Museum

 展示室に設けられたベンチにも注目だ。そこには展示内容に関するアクティビティが用意されている。例えば展示室77にはノルウェーの建築家スヴェレ・フェーンがデザインした椅子(スツール)の縮小サイズのキットが置いてあり、鑑賞者はそれを手に取って組み立ててみることができるなど、新美術館ではインタラクティブなアクティビティを充実させていることも大きな特徴のひとつだ。

展示室77より、椅子のキット Photo by Ina Wesenberg/The National Museum
展示室77の展示風景 Photo by Ina Wesenberg/The National Museum

美術・デザイン(工芸)・建築の異なるコレクションを織りまぜた展示