The Art of engineering. Engineering for Art
このイベントの企画者でガイドとして参加したSigmaの担当者は、フォトウォークを開催する目的を次のように語った。
「15年くらい前からユーザーとのコミュニケーションを密にし、販売後の楽しみ方の提案や、使用についての不安や疑問に答える機会としてフォトウォークを開催してきました。これまでは鉄道や天体など、特定の被写体をハンティングするためのノウハウを学ぶ、といった内容が多かったのですが、新たに『アート』に寄せたイベントができないかということで企画したのが「撮る・見る・学ぶ fpフォトウォーク」です。カメラメーカーが『アート』を語ることには昔から難しさがあり、技術については大いに語れるけれど、アートという思想を発信することには躊躇があった。しかしSigmaとして、技術と『アート』の橋渡しができないかと考えました。第1回は出身地を撮り続けた入江泰吉氏の足跡を訪ねるツアー、そして2回目である今回は、私が写真活動にはまるきっかけでもあり、想い入れも強い植田正治氏をテーマにしてみました」。

こうした取り組みの背景には、同社の確固たる事業哲学と企業理念がある。1961年に「シグマ研究所」として創業したSigmaは、デジタルカメラ、交換レンズ、各種アクセサリーなど「撮影の道具」をつくり続け、2021年には創業60周年を迎えた。創業時から変わらぬ哲学は「Small office, Big factory」。理想の製品開発には、高い生産技術が不可欠であり、鋭い発想力をかたちにする「ものづくり」の力のバランスを端的に表した言葉だ。製品に関わるほぼすべての製造・加工・組み立てを、会津工場を中心とした国内一貫生産体制を維持し、高い製造技術と品質管理を実現している。
このように、徹底した職人気質によるテクノロジー製品を世に送り出してきたSigma。理念のひとつが「The Art of engineering. Engineering for Art」だ。技術の粋を集めた製品そのものが芸術であり、その製品は芸術表現に貢献しているというふたつの意味が込められる。シグマの事業において「アート」は重要なものとして明示されている。
「社内では開発者向けに写真集ライブラリーを創設し、世界の芸術表現に触れ、感性を高められる環境も整えられています。ユーザーには、製品を通じてそれぞれの表現活動を深め、楽しんでもらいたい。その取り組みのひとつが、日本の写真作家を知ることを通じてユーザーコミュニティを形成する本企画です。ほかにも、昨年の『T3 PHOTO ASIA』では弊社が所有する写真集コレクションの一部をポップアップとして展示したり、昨年の『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭』に参加するなど、アート分野に積極的に貢献しています」。

ものづくりにこだわりながら、その技術によって文化を育てていこうとするSigma。フォトウォークは小さな試みかもしれないが、誰もがアートとしての写真に触れ、表現者となる入口をつくろうとする同社の企業姿勢がよく現れた試みだ。アート・フォトにおけるSigmaの存在感は、今後もますます増していくだろう。