植田正治を訪ねるフォトウォークから見えてきた、Sigmaがアートで目指すもの【2/4ページ】

憧れの「アマチュア写真家」の世界に寄り添う:1日目

 1日目は植田正治写真美術館からスタート。米子駅からは車で30分ほど、街なかを過ぎ、林を抜けると巨大なコンクリートの建造物が田園のなかに忽然と姿を現す。正面には中国地方の最高峰・大山(だいせん)の雄大な姿が対峙する。

植田正治写真美術館

 館の設計は鳥取出身の建築家・高松伸。大きさの異なる4つのブロックが横並びになる造りは、植田が家族を並べて撮った、砂丘シリーズの中でももっとも知られる1点を表象している。内部もコンクリートの打ちっぱなしで、あちこちに切り込みが入り、外光をもたらす。構成的で無駄のないシンプルさは植田の作品に通じ、決して無骨に堕さず、どこか柔らかく静かなやさしさをたたえているところも「植田調」の写真と一緒だ。

植田正治写真美術館

 2階からは大山の優美な姿が、水面に映る逆さ大山とともに楽しめる。周囲の風景を取り込み、鳥取の風土を愛した植田の眼を感じさせる、まさに植田作品のために造られた空間が心地よく、建築そのものも格好の被写体だ。代表作のモチーフとなっている帽子、ステッキ、傘を小道具に、自分が被写体になれるフォトスポットもあり、参加者を楽しませていた。

植田正治写真美術館のフォトスポット

 フォトウォークの参加者たちは、同館館長である植田の三男、植田亨氏の案内で館内をめぐる。現像液の希釈水を井戸からくみ上げる手伝いをしたというエピソードなど、撮影時の思い出を語ってもらいながら作品群を鑑賞。参加者にとって貴重な時間となった。作品には幼いころの亨氏の姿も写っており、美術館に飾られている作品が、家族アルバムでもあるのだという不思議な感覚も憶える。テーマや撮影対象、構図、現像手法、作品の持つニュアンスなど、参加者はおのおのの興味と関心をもとに作品にアプローチすることができた。

展示作品の解説をする植田亨氏
植田亨氏との作品鑑賞の様子

 午後からは鳥取砂丘に移動。東西約10キロメートルにおよぶ広大な砂礫地は、中国山地の花崗岩質の岩石が風化し、千代川によって日本海へ流された細砂が強風により打上げられ堆積したもの。植田作品の舞台となったことでも知られている。晴れ間と急な雨が目まぐるしく変わるなか、各自が美術館で見た植田作品を思い返しながら、思い思いの場所で撮影にいそしんだ。砂丘へのフォトウォークにも亨氏が同行。鳥取砂丘を知り尽くした人だからこそ紹介できる、特別な撮影スポットに案内してくれるという嬉しいサプライスもあった。

鳥取砂丘でのフォトウォーク
鳥取砂丘でのフォトウォーク

編集部

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