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戦前の日本映画は9割が失われた。国立映画アーカイブ館長・栩木章が語る、映画を未来に残すということ【2/5ページ】

白黒フィルムなら「500年から1000年」残せる

──フィルムの保存には、どのような環境が必要なのでしょうか。

栩木 映画フィルムは、高温多湿の環境に置くと劣化します。そのため、神奈川県相模原市に専用の保存庫を設けて、低温・低湿の環境で保管しています。温度はおよそ2度から10度、湿度は35パーセントから40パーセントです。この環境で保存すれば、理論上、カラーフィルムは退色が顕著になるまで100年ほど、白黒フィルムについては500年から1000年程度持つとされています。

──想像していたより、はるかに長いですね。

栩木 きちんと環境を整えれば、映画フィルムは非常に長寿命なメディアなんです。例えば1910年に撮影された、ライオンの創業者・小林富次郎の葬列を記録した映像があります。当時のネガフィルムと、そこから焼き付けたポジフィルムがともに残っています。

 100年以上経った現在でも、そこから新しいフィルムをつくったり、デジタル化したりすると、非常に解像度の高い映像を再現できます。しかもそこに映っているのは、葬列だけではありません。当時の神田辺の街並み、人々の姿、交通機関、さらには葬列という行為そのものの民俗学的な情報まで含まれている。撮影された当時には意識されていなかった情報を、100年以上後の私たちがそこから読み取ることができる。それも映画を保存する大きな価値だと思います。

──そうして保存された映画を、実際に劇場で上映することにはどのような意義がありますか。

栩木 我々は、資料とそれを鑑賞する人や利用する人をつなぐ中間的な存在だと思っています。映画には、監督、カメラマン、俳優、スタッフ、現像などに携わる様々な人がいて、「この作品はこうあるべきだ」という姿に向けてつくられています。そして、これまでにつくられてきた多くの映画は、スクリーンに投影されることを前提にしています。ですから映画アーカイブの劇場で、その映画が本来想定していた姿で上映し、体験してもらうことには重要な意味があります。

 さらに、歴史的な作品であれば、作品だけを見るのではなく、当時の観客がどのように映画を体験したのかということまで含めて、ある意味で再体験してもらう。それも私たちの役割だと考えています。

編集部