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歴史のタペストリー ── ニューヨークとパリのストリートアート展から考える【4/9ページ】

 オス・ジェメオス:終わりなきストーリー(ハーシュホーン美術館、2024年9月29日〜25年8月3日)

 4月24日(木)──。2日目は早朝にペンステーションを出発した。列車に3時間ほど揺られ、ワシントンD.C.に到着する。初めて訪れる米国首都での目的は、ユニオン駅から徒歩30分ほどのハーシュホーン美術館で開催されている「オス・ジェメオス:終わりなきストーリー」展である。サンパウロ出身の双子のアーティストデュオ、オス・ジェメオスは、欧米以外の地域出身でもっとも成功したストリートアーティストだと言ってよい。

「オス・ジェメオス:終わりなきストーリー」展の展示風景
Photo ©︎LGSA by EIOS

 ブラジルらしい鮮やかでポップな極彩色、魔術的でシュルレアルな人物群、ヒップホップが育んだBボーイの感性、ストリートで培ったハードコアの精神、壮大なスケールの壁画から細密な絵画まで自在にこなす技術、建物の形状や環境の特性をユーモラスに作品化する豊かなアイディア。多作で見応えのある仕事は、実力を裏づける。本展は、オス・ジェメオスの初期から現在までの変遷を、膨大な作品とアーカイブであらゆる角度から余すことなく伝える初の大型展である。

 このテクストで取り上げる展覧会のうち、本展は唯一、冒頭で述べた「ストリートアートの歴史を検証する取り組み」という括りから一見すると外れる。後述するように、ラメルジーやコーンブレッドの展覧会も個展だが、70〜80年代のストリートアートを再考するという大きな潮流がその背後にある。90年代に活動を開始したオス・ジェメオスは現在進行形のアーティストであり、その評価はこうした潮流とは直接は関係がないのである。いっぽうで、現在進行形のストリートアーティストの大型レトロスペクティブがアメリカの国立美術館で開催されること自体が、ストリートアートをとりまく環境の歴史的変化を告げている。

 コルコランも述べたように、70〜80年代に形成された「グラフィティ=犯罪、退廃」という負の印象は、いまでも一部に根強く残っている。またストリートアートは取るに足らないトレンドであり、真剣に取り合うべき芸術ではないという過小評価も、これまでその価値を不当に損なってきた。こうした偏見には根拠もある。ストリートアートの多くが違法であり、また長期にわたりコミュニティ内では反知性主義的なムードが支配的だったためである。

 それにもかかわらず、この領域から頭角を表したアーティストたちの純粋な表現の力は、そうしたバイアスを跳ね除け、世界を魅了しつづけてきた。もちろんすべてのストリートアーティストがそうではない。どのジャンルでも同じように、少数の類まれな才能が状況を変えてきた。本展「オス・ジェメオス:終わりなきストーリー」は、その最良の成果のひとつに数えることができるだろう。

「オス・ジェメオス:終わりなきストーリー」展の展示風景
Photo ©︎LGSA by EIOS