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歴史のタペストリー ── ニューヨークとパリのストリートアート展から考える【3/9ページ】

ゴードン・マッタ=クラーク:NYCグラフィティ・アーカイブ 1972/3(ホワイトコラムス、2025年3月20日〜5月17日)

 4月23日(水)夕方──。諸用を済ませ、ダウンタウン・マンハッタンに向かう。次の目的はホイットニー美術館の近く、ホワイトコラムスで開催されている「ゴードン・マッタ=クラーク:NYCグラフィティ・アーカイブ 1972/3」展である。友人で元UGAメンバーのCOCO144と合流し、会場に入ると、中央の小階段から左右ふたつのスペースにつづくユニークな空間が広がる。1970年代のニューヨークで活動し、都市や建築をテーマにした現代美術の先駆者であるゴードン・マッタ=クラーク(1943〜78)とストリートアートの関係に焦点をあてた企画である。

 マッタ=クラークの作品やプロジェクトは多岐にわたるが、本展の出品作のひとつは、匿名のライティングが全面にかかれた大型バンをワシントン・スクエア公園のアートフェアに展示し、その場で車体を切り売りした1973年のパフォーマンス《グラフィティ・バン》である。この時期にマッタ=クラークが撮影した路上のライティングの写真は2000枚とも言われ、その関心の強さがうかがえる。本展は、それらの写真やパフォーマンスの記録を左のスペースに、それらの写真に写っていた当時のライターたちの初期作品や、関連する様々な資料を右のスペースに展示する対比の構成によって、歴史のなかで交差する美術とストリートの姿に迫っている。

 会場のホワイトコラムスは、70年にマッタ=クラークが友人らと創設したアーティストランスペース「112 Greene Street」が母体である。本展の出品作のひとつ《グラフィティ・フォトグリフ》(1973)が同会場で展示されるのは、73年に「112 Greene Street」で展示されて以来2回目であり、そこにはダウンタウン・マンハッタンに連綿とつづくアートシーンの歴史がエコーする。それは本展においてもうひとつの歴史──当時、美術の動向とは異なるレイヤーで開花したエアロゾル・ライティングの歴史──に接続され、より豊かで多声的な共振を生んでいる。

 企画者のひとりであるロジャー・ガストマンは、ストリートアート研究の第一人者として旺盛な活動が目覚ましい。2011年にロサンゼルス現代美術館で開催された大型展「アート・イン・ザ・ストリーツ」の共同キュレーターを務めたのち、2018年にストリートアートの歴史研究や出版・教育事業を行う組織「ビヨンド・ザ・ストリーツ Beyond The Streets」を発足している。

自作の前に立つCOCO144
Artwork ©︎COCO144, Photo ©︎LGSA by EIOS