リペインティング・サブウェイアート(ウォールワークス・ニューヨーク、2025年4月4日〜5月4日)
4月25日(金)──。ニューヨーク最終日は、数年ぶりにジョン・フェクナーに会うため、午前中からロングアイランドへ移動する。フェクナーはステンシルを用いたストリートアートのパイオニアとして知られ、拙著『ストリートアートの素顔』でも一章を設けてその半生を詳述した。今夏渋谷で開室予定の大山スタジオが準備するストリートアートの資料室「LGSA by EIOS」について構想を伝えるなど、お互いに近況を報告し、再会を約束してマンハッタンへ戻る。

Photo ©︎LGSA by EIOS
そのまま直行したのは、ブロンクスのハンツポイント地区にある新しい複合文化施設「インスピレーションポイント(Inspiration Point)」の2階に位置し、ベテランのストリートアーティストCRASHが共同オーナーを務めるギャラリー「ウォールワークス・ニューヨーク」である。1978年から93年まで南ブロンクスにあり、80年代に多くのストリートアートの展覧会を行ったことで、近年あらためて注目が集まるオルタナティブスペース「ファッションモーダ」の血脈を引くと同ギャラリーが自負するように、ここに反響するのはブロンクスのアートシーンの系譜である。
この春は、1984年に刊行されたマーサ・クーパーとヘンリー・シャルファントによるストリートアートの古典的名著『サブウェイアート Subway Art』へのオマージュとして、オランダを拠点とするストリートアーティストTRIPLが10年をかけて製作し、2024年にRuyzdael社より刊行された書籍『リペインティング・サブウェイアート Repainting Subway Art』の刊行を記念する同名の展覧会が開催されている。
同書は、ストリートアートの写真を含む『サブウェイアート』の全ページを、現在の環境において丸ごと再現している。例えば当時ニューヨークの地下鉄に制作されたマスターピースは、一つひとつ同じスタイルで現在のオランダの鉄道の車体にかかれ、同じアングルから撮影されている。作品写真だけではない。人物写真であれば、TRIPLの周囲のメンバーがモデルとなり、当時の衣服まで正確に復元されている。それらの写真はオリジナルと同じ誌面構成にまとめられ、見比べると間違い探しのようですらある。
2階のウォールワークスでは人物写真用の衣服や映像なども展示され、インスピレーションポイント1階の共有スペースでは、40年のときを隔てたふたつの書籍の各ページを並置する比較展示が行われていた。本展は書籍の刊行記念であると同時に、ひとつの歴史解釈のプロジェクトだとも言える。「Repainting」という表現は「ゴーイングオーバー」と呼ばれるストリートアートの塗り替え闘争を彷彿させるが、半分は敬意のあるオマージュ、半分は無許可の塗り替えにも取れるその態度には、既存の文脈に対する批評性も感じられる。ニューヨークという都市の起源にオランダという国が深く関わったことを踏まえ、そこにレム・コールハースの主著『錯乱のニューヨーク』につらなる必然性があると考えるのは大袈裟だろうか。

Photo ©︎LGSA by EIOS
いずれにせよ、40年という時間はある事象に歴史性を付与する。深夜のジョン・F・ケネディ空港に向かう前、ダウンタウン・マンハッタンに戻り、最後に立ち寄った「ABC No Rio 45 Years」展(エミリー・ハーヴェイ財団、2025年4月5日〜26日)では、1980年に創設された伝説的なダウンタウンのオルタナティブスペース「ABC No Rio」の歩みが振り返られていた。トークイベント中で展示はきちんと鑑賞できなかったが、『サブウェイアート』と並んでストリートアートを世界中に広めたヒップホップ映画の金字塔「ワイルド・スタイル」の監督チャーリー・エイハーンをその客席に見つけたとき、ホワイトコラムスの展示で感じた歴史の多声的なエコーにふたたび触れた気がしたことを言い添えておきたい。



















