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歴史のタペストリー ── ニューヨークとパリのストリートアート展から考える【2/9ページ】

アボヴ・グラウンド──マーティン・ウォン・グラフィティ・コレクションの美術(ニューヨーク市立博物館、2024年11月22日〜25年8月24日)

 4月23日(水)午前──。ニューヨーク初日、最初に足を運んだのは、マンハッタンのアッパーイーストサイドにあるニューヨーク市立博物館で開催中の「アボヴ・グラウンド」展である。エアロゾル・ライティングの黄金期にあたる1980年代にニューヨークで活動した画家マーティン・ウォンが個人的に収集したストリートアートのコレクションは、1994年に同館に寄贈された。2014年に開催の「シティ・アズ・キャンバス City as Canvas: Graffiti Art from the Martin Wong Collection」展につづく本展は、同コレクションを公開する2回目の企画展である。

 両展を担当した同館キュレーターのショーン・コルコランによると、前者の狙いは、70〜80年代のストリートアートにひもづいたニューヨーク市民のネガティブな記憶を払拭することだった。それを踏まえて本展「アボヴ・グラウンド」では、初期のストリートアーティストたちの一部は当初から真剣な芸術的ヴィジョンにもとづき活動していたこと、その多くが制作の場をストリートからスタジオに移し、現在までその探究を真摯につづけていることを示そうと試みている。

 展覧会の前半では、ストリートアーティストによる最初期のギャラリー展示として知られるユナイテッド・グラフィティ・アーティスツ(United Graffiti Artists、UGA)のグループ展(1975年)のカタログを筆頭に、ストリートアートという分野がその最初期から、路上と平行してスタジオやギャラリーといった空間でも展開されてきたことを実証する豊富な資料を目にすることができる。会場を進むと、クリストファー・DAZE・エリス、SHARP、DELTA2、A-ONE、ドンディ・ホワイトらの貴重なキャンバス作品が壁面に展示されている。とくに視覚美術としてのエアロゾル・ライティングの可能性を模索したアーティストたちである。

 コルコランは、こうした芸術的ヴィジョンを抱いていた一部のアーティストたちが、当時のストリートアートを次の段階に引き上げたと分析する。路上がストリートアートの主要なフィールドのひとつであることは疑いえないが、その歴史や価値はより多面的、複合的な視点からとらえていく必要があることを本展は浮き彫りにする。私が監修した『美術手帖』2017年6月号にもコルコランのインタビューが掲載されているので、合わせて参照されたい。

「アボヴ・グラウンド」展の展示風景
Photo ©︎LGSA by EIOS
「アボヴ・グラウンド」展の展示風景より。右は1975年にソーホーのArtists Spaceで行われたUGA展のカタログ
Photo ©︎LGSA by EIOS