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有識者が選ぶ2022年の展覧会ベスト3:吉田山(アート・アンプリファイア)

数多く開催された2022年の展覧会のなかから、有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回はアート・アンプリファイア(増幅器)として、フィールドワークをもとにアートスペースの立ち上げや作品制作、展覧会のキュレーション、ディレクション、コンサルティングや執筆等の活動を行う吉田山のテキストをお届けする。

文=吉田山

山口幸士個展「小さな光」展示風景

山口幸士個展「小さな光」(川崎市内の工場跡地/4月30日~5月4日)

山口幸士個展「小さな光」展示風景

 ペインター山口幸士による自主企画の個展。作家の地元である川崎市湾岸地帯にある工場跡地が会場。この空間はいまはなきオルタナティブスペースBankArt Studio NYKの内装を彷彿とする無機質さであり、吹曝で雨漏りもあるので油画を飾る展覧会の開催に長けているとは言い難い。しかし、その不安定な要素を大きく超越する必然性がある、それは作家が数十年眺めてきたこの川崎の風景絵画と、会場の窓から見える夕暮れや湾岸の移り変わる光と展示されている絵画は相補的な景色をつくり上げていた。作家自身が場所を探し、選び、開催されたのだという。この規模の鑑賞経験がアーティストによる自主企画によってつくり出されたことに自主企画/DIYの未来を感じる展覧会。

「手前の崖のバンプール」展(東京湾/5月28〜29日)

「手前の崖のバンプール」展の様子 撮影=太田琢人

 アーティスト・藤倉麻子による自主企画。東京湾海上を舞台とした物流型展覧会。この物流型展覧会は木材を加工した棒形のチケットが自宅に郵送されてくるところから始まっている、当日東京湾に集合し、ダンサーであるAokidのアテンドで船で会場をめぐる。船内には藤倉麻子の3DCGのアニメーション映像作品がディスプレイにて上映されており、スピーカーからはラジオの様な音が聞こえているがエンジンの音が大きくまったく聞こえない、東京湾はどす黒く泡立っている。物流のように鑑賞者、演者、作品がロジスティクスをなぞる様に海を突き進む。この小さな船では鑑賞のための目が揺さぶられ何を鑑賞しているのか曖昧にこの黒い海に溶け続ける。流動化された展覧会の中で何を経験するかを委ねられたプロトタイプが開いた海路は今後どのように発展していくのだろう。

「57 steps from 1963」(FBIギャラリー/8月7日〜8月14日)

「57 steps from 1963」展の様子

 アートコレクター・黒木健一による自主企画の展覧会。銀座にある古風な雑居ビルの5階で開催。コレクター自身が所有する作品で構成されたコレクション展。コンセプトに沿ってコレクションされた作品の展覧会はコレクターのお披露目という枠組を飛び越える具体的な構想によって開催される。展示タイトルの57という数字は会場5階まで向かう際の階段の数であり、ある時点での日本の原発保有数と一致する数字である、また、1963とは会場のビル、そして日本初の原子力発電が生まれた年でもあるという。そのサイトスペシフィックな基礎から、それぞれの出品作品の文脈を読み替え、展覧会という1つの表現として昇華されていた。コンセプチュアル・コレクションな態度が、まったく未知の表現可能性の回路を想像させられた展覧会。

編集部

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