神奈川県川崎市出身のペインター・山口幸士。その個展が川崎市内、工業地帯にある工場内で開催され、大きな注目を集めている。
街を遊び場とするスケートボードの柔軟な視点に強く影響を受け、日常の風景や身近にあるオブジェクトを、ペインティングやドローイング、コラージュなど様々な手法で独自の視点に転換してきた山口。2015年から3年間、ニューヨークでの活動を経て、現在は東京を拠点に活動している。
2018年の帰国後、駆け抜けるようにいくつかの個展を開催してきた山口。コロナ禍での外出規制があったこともあり、一度自身のホームタウンである川崎に視点を戻し、心身ともに川崎そのものを見つめ直した。違う土地での経験を経て、改めて自身の育った街を俯瞰してみることができたと山口は話す。
作家が自主的に企画した本展はまさにDIY。まずは会場を見つけることから始まった。工場を会場にした理由には、ホワイトキューブで商品化されつつあるストリートアートへの危機感、スケボーで街を開拓するような感覚で展覧会の新たな可能性を示したいという思いがあった。
会場が決まってからは、どこに、どの作品を展示するかを考えながら作品を制作。川崎をリサーチし、市内各地で見つけた風景が、柔らかな光と闇をまとう絵画群になっていった。大小様々なサイズのキャンバスには、高層ビルや民家、公園など、誰もが見たことがあるような風景が広がる。山口によると、作品と会場全体とが「川崎」という街を表象しているのだという。
海に向かって開けた窓から差し込む光が工場内部と作品を照らし出す。会場を後にしたあなたは、きっと違う視野を手に入れていることだろう。山口が見出した「小さな光」を、ぜひ会場で目撃してほしい。