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リソグラフがつなぐ「同路上性」のアーティストたち。FL田SHインタビュー

東京・外苑前のオルタナティブスペースを中心に展開されるアートプロジェクト「FL田SH(フレッシュ)」。現在、渋谷パルコの「OIL by 美術手帖」では、FL田SHのディレクションのもとデジタル印刷機「リソグラフ」による作家33組のアートプリントを展示販売する展覧会「RISO IS IT」が開催中。FL田SHの吉田尚弘と高田光に、リソグラフの魅力やストリートカルチャーとの関係を聞いた。

聞き手・構成=安原真広 写真=濱田晋

展示作業をするFL田SHの高田光と吉田尚弘、東京・渋谷の「OIL by 美術手帖」にて

 吉田尚弘と高田光のふたりのアーティストにより、東京・外苑前のオルタナティブスペースを中心に展開されるアートプロジェクト「FL田SH(フレッシュ)」。ギャラリーやショップの他に、デジタル印刷機「リソグラフ」を使った印刷作品の制作や、ワークショップも実施している。

 現在、渋谷パルコの「OIL by 美術手帖」では、FL田SHのディレクションのもとリソグラフによる作家33組のアートプリントを展示販売する展覧会「RISO IS IT」が開催中。FL田SHのふたりに、リソグラフの魅力や、複製することで広がるアートの裾野について聞いた。

リソグラフで印刷された「RISO IS IT」のインビテーション

──外苑前のマンションの一室をオルタナティブスペース(7月移転予定)として運営しているFL田SHですが、そもそもFL田SHのプロジェクトはどのように始まったのでしょう?

吉田 そもそもの始まりは3年ほど前でしょうかね。僕と高田は、再開発の進む渋谷の街を歩きながら缶ビールを片手にストリートカルチャーやアートといったことを取り留めもなく話すような遊びをしていました。

 あるとき、マンションの一室が、比較的自由な事をさせてもらえる状況だというのを知り、何かできそうという事で借りることになりました。考えた結果、互いに物をつくるので、店として作品を売ったり、展示をしたりできる空間を始めようということになって。これがFL田SHの始まりですね。

高田 僕らふたり、共通する興味として持っていたのが、複製芸術としての物販のおもしろさだったり、もっと言えば複製芸術を物販するためにアートが存在するんじゃないのか、といった問いでした。どこの美術館の展覧会に行っても、ミュージアムショップには企画展の作家や作品をテーマにした大量のグッズが並んでいますよね。展覧会の目的が作品を見ること以上に、グッズを売ることになっている。そこにおもしろさを見出していたんです。

吉田 スペースを始めた当初は、いまよりも物を売るというコンセプトが強く、物販と展示が同じくらいの面積だったんですが、次第に展示部分が広くなっていきました。限られたスペースで、壁のみの展示をすることに限界を感じ、どんどん床面積をひろげました。いまではほぼ展示スペースのような状態ですね。

東京・外苑前のFL田SH 提供=FL田SH
東京・外苑前のFL田SH 提供=FL田SH

──吉田さんと高田さん、それぞれ個人としてはどういった活動をされているのでしょう?

吉田 僕は自分を詩人と位置づけていて、1950年代にドイツとブラジルで始まった、コンクリート・ポエトリーに影響を受け、それを引き継ぎながら活動しています。

高田 自分は10代の頃からストリートアートの人たちと遊んできて、とくに2010年の始めにヨーロッパを回ったときに出会った、ストリートアートの作家たちの広い視野に影響を受けています。彼らの活動はたんなるビジュアルアーツの枠を超えた、都市の構造や理論に密着した活動だったりして新鮮でした。いまでも彼らと一緒に本をつくったり、リソグラフで作品をつくったりしています。

──FL田SHの活動のなかでもひとつの大きな軸となっている、デジタル印刷機・リソグラフですが、これはもともと高田さんが興味をもって使用するようになったということですか?

吉田 そうですね。もともと高田が所有していたリソグラフの機材一式を、FL田SH設立のときに持ってきてもらいました。

高田 僕が初めてリソグラフを知ったのは、ドイツ在住の友達がきっかけでした。その友人が、来日するときにリソグラフでつくった作品を持ってきてくれて、その質感や色味がすごくいいなと思ったんです。聞けば、ヨーロッパではけっこう使っている人が多いみたいなんですよね。実際にドイツのアーティストの版画をつくる工房に足を運んでみたら、本当にリソグラフが使われていて。そういったところから興味を持ちました。

「RISO IS IT」展示風景より、FL田SH作成の作業台(手前)とリソグラフの印刷機(奥)

──リソグラフの印刷機の見た目はオフィスにあるコピー機と似ていますが、構造はまったく異なるものですよね? どういった仕組みの印刷か教えてもらえますか。

高田 機械自体は一般的なコピー機に似ていますが、コピー機と違って単色を何度も重ね刷りをすることで印刷を行います。例えば10色使って作品をつくるなら、10個の版をつくって、10回重ね刷りすることになります。小さな穴の空いた版をつくり、それをインクプールに巻きつけ、インクを染み出させます。版そのものは使い捨てになりますし、一度刷ったらインクの乾燥に1日くらいかかるので、一般的なカラーコピーと比べると時間と手間はかかります。

──アーティストが描いた原画をリソグラフにするためには、どういった手順を踏むのでしょうか?

高田 まず、フォトショップなどでアーティストの原画をC(シアン)M(マゼンタ)Y(イエロー)K(ブラック)の4色に分解し、50種類ほどあるリソグラフのインクから類似色を見つけ、それを重ね合わせて印刷します。何回も刷ってシミュレーションを繰り返しながら、ベストな色の重なりを見つけていくんです。

 今回の展覧会、「RISO IS IT」では33組のアーティストのリソグラフを制作しました。印刷データを自分でつくってくれる作家さんもいましたし、僕らが印刷データをつくる場合は、いくつかパターンをつくりながらお互いのイメージをすり合わせました。リソグラフって、データの編集や実際に印刷をする人のセンスとか特徴がけっこう出るんですよね。淡い色の出し方とか、コントラストの表現、グラデーションとかにも色々と表現の違いがあって。そこもまたリソグラフのおもしろさなんです。

「RISO IS IT」展示風景より、リソグラフ作品

──「RISO IS IT」では、ストリートアートから、現代美術のペインター、パフォーミングアーティストなど、さまざまな分野の作家のリソグラフ作品がそろいました。こうした多岐にわたる作家は、どのような基準でキュレーションしたのでしょう?

高田 作家のキュレーションは、FL田SHと「OIL by 美術手帖」が共同で行いました。それぞれの選ぶ作家のカラーが違うのがおもしろくて、若いストリートのアーティストとベテラン作家が並ぶのが新鮮でした。普段僕らがリソグラフで印刷しないようなジャンルの作家さんも手がけることができて、例えばキャラクターのコラージュ作品で知られる梅沢和木さんと、パフォーミングアーツのContact Gonzoの作品が一堂に会することで生まれる化学反応はあると思います。

吉田 一見するとジャンルを大胆に横断しているように見えるかもしれませんが、僕らのなかでは今回の出展アーティストには共通する部分があると感じています。僕らがテーマとしていることのひとつに「同路上性」という造語があります。「同じ路上を共有している」ということですが、今回のアーティストも「同路上性」を持つアーティストだと考えていて。例えば、今回作品を提供してくれた梅津庸一さんがやっているパープルームの一連の活動なども、路上という点では思想を共有している感じがあると思っています。

高田 僕自身、ストリートアートが好きで、その文脈を辿ってきた人間なので、作品って、誰かが所有しているようでいて、同時にパブリックなものだと思っているんですよね。こういうマルチプルで低価格のものなら、アートに詳しくない人でも「なんかいいな」って思ってくれて、服を買う感覚で買える。その距離感がいいですよね。

FL田SHの高田光、吉田尚弘

──紙に印刷してなにかしらをつくるという行為は、ストリートアートの文化においては重要な意味を持っていそうですね。

高田 ストリートカルチャーと印刷文化との関連は強いと思っています。例えば70年代後半から80年代にかけて活動したイギリスのパンクバンドの「クラス」は、DIY精神でレコーディングからフライヤーまで自分たちでやっていたんですよね。そういう人たちの活動に影響されて、若者がZINEをつくり始めました。同時期のアメリカでもスケートボードやグラフィティ文化が大きな潮流になって、自分の表現を印刷して配る文化が、世界で同時多発的に広がっていきました。

吉田 ヨーロッパでは小さな街にもシルクスクリーンの工房が必ずあるように、そもそも手づくりの印刷物との距離が文化的にすごく近いんですよね。アーティストのプリントをつくっている人たちがとても身近というか。

 日本でも、僕らの活動からリソグラフを知ってくれた人たちが、どういった反応を示すのか楽しみです。今後、リソグラフがちょっと高級なプリントというかたちで広まっていくのか、あるいはストリート的な手軽でポップな存在になるのか、その両方か。まだわからないので楽しみですね。

高田 あと、日本ではリソグラフって、公共施設や学校でチラシをつくるための事務機としても使われていて、実はとても身近なところにあったんです。そういった、アートとは違う事務的な場所で使われてきたものを再発見することは、サンプリングっぽくていいなと思います。

「RISO IS IT」展示風景より、リソグラフ作品

──今回は、FL田SHのオルタナティブスペースではなく、渋谷パルコという自分たちのホームではない場所での初めての展示となります。何か新たな発見はありましたか。

吉田 渋谷パルコは自分たちのスペースとは違って、たくさんの人が見るし、他者性が強い場所です。いかに他人を気にせず、僕らが自分たちのスペースで普段やっていることを展開できるかが課題でしたね。

高田 作品を並べるときも、あまり気負わずフリースタイルで。並べ方には正解がないので、感覚で決めていった感じです。言語化するのは難しいですけど、交差していく感じを大切にしましたね。

吉田 僕、初めて買った作品が、1万円前後のものだったんですよね。いまでこそ気に入った作品が1万円だったら迷わず買いますけど、最初はすごい勇気が必要でした(笑)。

 リソグラフ作品が初めてのアート購入になる人もいると思います。ぜひ、作品を飾ることで、家の中心が変化するという体験を味わってほしいですね。価格も安いので、複数枚買ってローテーションで飾ってみるのもおもしろいと思います。

 新型コロナウイルスでの自粛期間明けということで、良いタイミングで展示ができました。自粛期間中は「アートは不要不急ではない」みたいな流れが露骨にあったわけですが、まずは作品を買って飾ってみて、アートがあって良かったと思う瞬間があることを知ってもらえるといいですね。

高田 先ほども「同路上性」の話をしましたけど、いろんな分野でクリエーションしている人たちのものが、リソグラフという複製行為にによって路上に開かれていくことを願っています。

「RISO IS IT」展示風景

編集部

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