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関東大震災絵図からリハビリとアート、村上由鶴のアートとフェミニズムを考える入門書まで。『美術手帖』2024年1月号ブックリスト

新着のアート本を紹介する『美術手帖』のBOOKコーナー。2024年1月号では、『関東大震災絵図 揺れたあの日のそれぞれの情景』から『障害の家と自由な身体 リハビリとアートを巡る7つの対話』、村上由鶴の『アートとフェミニズムは誰のもの?』まで、注目の8冊をお届けする。

文=中島水緒(美術批評)+岡俊一郎(美術史研究)

DRAWING ドローイング 点・線・面からチューブへ

 本書は、古代から現代まで、ミクロなレベルから宇宙規模まで、時間もスケールも行き来しながら、ドローイングという行為の可能性や歴史を展望しようとする。線を引くという行為は、境界線を引く行為だと理解されがちだ。しかし、鈴木ヒラクは、サブタイトルにもあるように、ドローイングという行為を、むしろチューブのようなもの、中空で境界線の内側と外側をつなぐ交通路のようなものとして位置づけようとする。生きていることすらドローイングだと定義する鈴木の広大な思索に読者は触発されるだろう。(岡)

鈴木ヒラク=著
左右社 2400円+税

アートとフェミニズムは誰のもの?

 「よくわからない」というとらえどころのなさと、「仲間内で閉じている」という村社会感。制度の外側から見ると、現代アートの印象などはそんなものなのかもしれない。近年興隆しているフェミニズムの運動にも同様のイメージがあるのだとしたら、どのような理解を経てそれらは「みんなもの」=公共の議題となるのか。フェミニズムを用いた美術批評、作家の具体的な実践などを手掛かりに、文化的・知的営みとしてのアートとフェミニズムを考える入門書。感情に振り回されず、知性で作品を読む姿勢に学ばされる。(中島)

村上由鶴=著
光文社新書 980円+税

明日少女隊作品集:We can do it!

 自らを「第4波フェミニズム」の潮流のなかに位置づけ、アートを中心としたかたちでフェミニスト・アクティヴィズムを行うグループである明日少女隊による作品集。19世紀末ごろに活発となった女性参政権をめぐる「第1波フェミニズム」から現在まで続くフェミニズム運動の流れを示した年表や、フェミニズムを専門とする複数の研究者・活動家による解説によって明日少女隊の歴史的位置づけを立体的に知ることができる。多くの参考文献や関連する映像作品など、明日少女隊を通してフェミニズムに対して理解を深めていくヒントがあちこちに組み込まれている。(岡)

明日少女隊=著
アートダイバー 1700円+税

穏やかなゴースト 画家・中園孔二を追って

 25歳で急逝した画家の生涯を、家族、友人、恋人への証言をもとに追いかけた評伝。どこか達観した物腰の心優しい少年、表現衝動に突き動かされ続けた生粋の絵描き、別世界からこの世に降りてきたような異邦人。身近な人々の語りからは、作品への深い洞察とともに、生と死の境界を揺れ動く青年の危うくも切実な生き様が伝わってくる。私的なエピソードと作品世界を即座に結びつけることはできないが、オフィシャルな作家論には現れない画家の姿が本書から読み取れるだろう。(中島)

村岡俊也=著
新潮社 3300円+税

関東大震災絵図 揺れたあの日のそれぞれの情景

 100年前、未曾有の被害をもたらした関東大震災。当時の惨状は写真や文献が伝えるところだが、多くの絵描きたちが手がけた「震災画」によっても貴重な記録が残されている。倒壊する建物や辺り一面を覆う火の海、家財一式を抱えて逃げる人々といった生々しい被災状況は伝聞やデフォルメも含むだろうが、ほかのメディアにはできない表現で記憶を継承せんとする迫真性が宿っている。図版と解説で震災から震災以降の世相までを振り返る本書は、地震大国に生きる私たちに教訓と心構えを授けてくれるだろう。(中島)

北原糸子、武村雅之、鈴木淳、森田祐介、高野宏康=著
東京美術 2600円+税

障害の家と自由な身体 リハビリとアートを巡る7つの対話

 本書は、いくつかの機会に大崎晴地の「障害の家」プロジェクトをめぐって行われたトークと、大崎の理論的な展望を示した論文をまとめたものである。プロジェクトは、最初期にはコンセプト・ドローイングと模型を中心に構成されていたが、のちに、実際に改造が施された家屋がつくられた。対談内容はプロジェクトの展開と緩やかに対応している。対談者のひとりである十川幸司も率直に指摘しているように、大崎の言う「障害」の概念はさらに精緻化される必要があるが、建築と障害そして身体に関して実際の建造物を使って思考しようとする態度は、重要なものだろう。(岡)

大崎晴地=編
晶文社 2700円+税

アナキズム美術史 日本の前衛芸術と社会思想

 惜しまれながら終業したブリュッケから刊行の『前衛の遺伝子 アナキズムから戦後美術へ』(2012)に2章を加えて復刊。アナキズム思想を軸に、日本の近現代美術のなかに脈々と息づく社会的・政治的なアートの系譜をたどり直す。歴史的な事象やモデル構造などを用いた論の底には、現在のアートへの熱い思いが底流している。続刊の『裏切られた美術』(ブリュッケ、2017)にもあたってほしい。(編集部)

足立元=著
平凡社 4400円+税

坂本龍一のメディア・パフォーマンス マス・メディアの中の芸術表現

 発展するマス・メディアからインターネット・メディアまでの坂本龍一の活動を歴史的に位置づける試み。YMOが散開した直後の1984/85年を起点に展開された坂本のジャンル横断的な活動に対して、「メディア・パフォーマンス」という枠組みを設定する。そのことで浮かび上がる芸術家像とはどのようなものか。この観点は、現代の芸術家について考える際にも広く適用できるだろう。(編集部)

松井茂、川崎弘二=編著 
フィルムアート社 2500円+税

『美術手帖』2024年1月号、「BOOK」より)

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