Space OneZ
釜山港の倉庫が並ぶ港湾地区にある「Space OneZ」は、かつての船舶用品の倉庫を改装した飲食施設だ。巨大な倉庫建築がそのまま残されており、ここでも作品が展開されている。

パリを拠点とするジュリアン・クルージエは、この倉庫の中央部で映像作品《ZUMBI ZUMBI ETERNO》 (2023)と《Zumbi Zumbi Eterno, out in the open, far off near the horizon, we blinked, hoping to see the green gleams, on the line of orange ash that fears sea salt, we hallucinated, the tide, the bitter remorse, far from the foreign land》(2026)を組み合わせてインスタレーションを構築した。前者は、植民地時代のブラジルで、逃亡アフリカ人奴隷たちが形成した自立的共同体「キロンボ・ドス・パルマレス」の指導者、ズンビ・ドス・パルマレス(1655〜95)の物語を、ハイチの土着信仰「ヴォドゥン」と死者(ソンビ)の物語に沿って解釈した映像だ。後者はこの映像に呼応するように、打楽器音と水音が流れるなか、何台もの廃車が埋葬されるように映像の一片がプリントされた布で覆われており、巨大な宗教の儀式がなされているような想像力が喚起される。

ブラジル出身のジョタ・モンバサは、サウンドインスタレーション《drowning is not a poem, but it's not not a poem either》(2026)を発表。海を独自の固有な声と知識を持った「生きている存在」としてとらえるモンバサは、釜山沖を航海し、水中マイクで音を録音した。この音に、ワークショップの参加者が各自で反応した声が会場に響く。船舶用品の倉庫だったという会場の来歴を踏まえ、暗い会場に海水で染色した青い布をぶら下げ、海を出現させた。

最後に紹介するのは、ベルギーを拠点とするブラヒム・タルによる、複数のスピーカーと円形のベンチで構成されたサウンドインスタレーション《The Choir of Dissonance: The Creation of the Sea》(2025)だ。タルは親しい協力者や友人、家族に「海になりたい」と切望する曲を各自の解釈で歌ってもらい、その個別に記録。19人の囁くような声が集まり、英語、フランス語、ポルトガル語という多言語の詩となって、スピーカーから響いてくる。各スピーカーは歌い手の身長に合わせて調整されており、言語のみならず、呼吸やリズムといった個性が、その場にいる鑑賞者に語りかけるように響いてくる。
人や物、文化が行き交う港町・釜山の歴史を肌で感じながら、音や身体といった視覚以外のコミュニケーションを重視する作品に触れられる釜山ビエンナーレ2026。いまだ続いている朝鮮戦争の禍根、高度化し複雑化する資本主義と拡大する格差、地球上の様々な場所で平板化していく地域の個性や民族のアイデンティティなどが、この街を行き交う人と物それぞれに張りついている。この場所で得たその視野を、各々の日常に持ち込むとき、それまでの日常の見方はどう変わるのか。そんな想像力を喚起する巧みな仕掛けが光るビエンナーレだった。



















