「逗子アートフェスティバル2026」会場レポート。築87年の歴史的建造物がアートの舞台に

神奈川県逗子市を舞台に、「逗子アートフェスティバル2026」が開催されている。会期は10月25日まで。14回目を迎える今回は「はじまりの未来、はじまりの場。」をテーマに、歴史的建造物・旧本多邸をメイン会場として、街の各所に作品が展開。森山大道、フランシス真悟、仲本拡史らが参加する本芸術祭の見どころをレポートする。

文・撮影=大原愛美(編集部)

旧本多邸での展示風景より R. バックミンスター・フラーによる大型石版画絵本《テトラスクロール 少女ゴールディと3匹の熊たち》(1976)

 神奈川県逗子市を舞台に、「逗子アートフェスティバル2026」が開催されている。会期は10月25日まで。2013年に市民有志によって始まった本芸術祭は、今年で14回目を迎えた。3年に一度の特別開催年となる今回は、「はじまりの未来、はじまりの場。」をテーマに、歴史的建造物・旧本多邸をメイン会場として、逗子市街や沼間エリアなど、市内各所で展覧会や音楽祭、市民参加型のプロジェクトが展開されている。

 相模湾を望み、海と山に囲まれた逗子。縄文時代の遺跡や古墳などの歴史的な痕跡が残るこの土地は、古くから多様な人々が行き交い、文化が育まれる場所でもあった。今回の芸術祭が掲げる「はじまり」とは、何かが新しく生まれる瞬間だけを指すものではない。テーマの背景にあるのは、過去に起きた無数の出来事が積み重なって現在をかたちづくり、その現在が未来へとつながっていくという時間の捉え方だ。

 総合プロデューサー・ディレクターを務めるのは墨屋宏明。テーマの着想源には、逗子在住の写真家・森山大道の言葉や、建築家・思想家であるR.バックミンスター・フラー(1895〜1983)の思想がある。フラーの大型石版画絵本《テトラスクロール 少女ゴールディと3匹の熊たち》(1976)の特別展示をはじめ、土地の記憶や自然環境、人々の営みに目を向けた作品が各会場に集まった。

築87年の旧本多邸で、過去と未来をつなぐ

 今回のメイン会場となるのは、1939年に建てられた旧本多邸だ。久米設計の創業者が手がけたこの建物は、国の登録有形文化財であり、約30年のあいだ使用されていなかった建物を3年をかけて修繕して活用したもの。木製の壁面装飾や暖炉、和室を備えた和洋折衷の建物で、今回は客間や寝室、屋根裏などにも作品が展開されている。

旧本多邸での展示風景より R. バックミンスター・フラーによる大型石版画絵本《テトラスクロール 少女ゴールディと3匹の熊たち》(1976)
R. バックミンスター・フラー《テトラスクロール 少女ゴールディと3匹の熊たち》(1976) 会場では子供向けに分かりやすく翻訳された文章の朗読が流れる

 まず、木製の壁面と暖炉が残る洋室に展示されているのが、フラーの《テトラスクロール 少女ゴールディと3匹の熊たち》(1976)だ。三角形のページを連続させた大型の石版画絵本は、童話「3びきのくま」を題材に、数学や自然科学、人類史、哲学などにまたがるフラーの思想を表現した作品。フラーが提唱した「宇宙船地球号」の概念にも通じる、地球や生命の構造についての思索が盛り込まれている。会場では、三角形に折り立てられたページが床を横断するように並び、鑑賞者はそれぞれの面に記された図像や文章をたどることができる。

フランシス真悟《Serene Illumination》(2026)

 また、旧本多邸の客間には、フランシス真悟の新作《Serene Illumination》(2026)が展示されている。ロサンゼルスと鎌倉を拠点とするフランシスは、光や色彩、空間の関係を探究してきたアーティスト。本作は床の間の奥に設置され、淡い色彩の画面が、建築空間にさらなる奥行きを与えるような構成となっている。平面の絵画でありながら、周囲の光や鑑賞者の位置によって色彩が変化して見える作品だ。

高屋永遠《位相-汀》(2026)

 その隣の畳敷きの空間には、高屋永遠の《位相-汀》(2026)が展示されている。直径120センチメートルの円形作品には、台風によって逗子海岸に漂着した流木や、同海岸の砂など、土地に由来する素材が用いられた。表面には異なる色彩や質感が幾層にも重なり、見る位置や光によってその表情を変える。土地の記憶を宿す素材と、見る者の身体や知覚の関係が主題となっている。

編集部

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