特別展「Double Body―細江英公と土門拳」(土門拳写真美術館)レポート。「肉体」を通じて見える2人の巨匠の美学とは

山形県酒田市の土門拳写真美術館で、特別展「Double Body―細江英公と土門拳」が10月12日まで開催されている。会場の様子をレポートする。

細江英公が撮影した三島由紀夫を被写体とする写真集「薔薇刑」(1963)

 山形県酒田市の土門拳写真美術館で、特別展「Double Body―細江英公と土門拳」が10月12日まで開催されている。担当は同館学芸員の田中耕太郎。

 土門拳写真美術館は、旧称「土門拳記念館」として1983年に開館した。谷口吉生の設計による建築、勅使河原宏が手がけた庭園、イサム・ノグチの彫刻、亀倉雄策による銘板など、土門とゆかりの深い表現者たちの協働によって生まれた意匠が深い印象を残す。酒田市出身の写真界の巨匠・土門拳(1909~1990)の約13万5000点を収蔵する、日本初の写真専門美術館として知られる存在だ。館内では、代表作「古寺巡礼」をはじめ、「ヒロシマ」「風貌」「筑豊のこどもたち」といった昭和のドキュメント、そして日本の美と心を追求した名作群が、テーマごとに展示替えを行いながら紹介されている。

 本展が光を当てるのは、近現代の写真史に大きな足跡を残した土門と、細江英公(1933~2024)の2人だ。土門は当初画家を志すも断念し、一時は農民運動に身を投じたが、24歳で写真館の内弟子となり表現者としての新たな回路を見出した。1935年に名取洋之助が主宰した「日本工房」へ参画すると、最先端のフォトジャーナリズムを吸収し、報道写真家としての才能を一気に開花させていく。

 いっぽうの細江は山形県米沢市生まれ。幼少期に東京へ移住するも、戦時下の学童疎開で再び山形へと戻った。戦後の復興期に写真と出会い、学生時代から「富士フォトコンテスト」で最高賞を受賞するなど早くから異彩を放つ。のちに戦後写真史において、肉体やヌードを題材にした金字塔を打ち立てることとなる

展示風景

 会場では全13章におよぶ細やかな切り口を通じ、2人の歩みと表現のあり方を多角的に追う。約200点もの作品を介し、世代も作風も異なる両者を「肉体」という視点から読み解く初の試みだ。なお、館内では銀の額縁が土門、黒の額縁が細江作品と色分けされている。

萌芽する才能、研ぎ澄まされる肉体への視線

 第1章「美しい肉体と傷ついた身体」では、写真家として歩み始めた1930年代から戦後に至る土門の初期活動を紹介する。写真館の門生として営業写真を手がけるいっぽう、それだけにとどまらず「日本工房」に参加。報道写真家としての第一歩を踏み出した。

第1章「美しい肉体と傷ついた身体」の展示風景

 戦時中には『NIPPON』(日本工房、1934〜44)や『写真週報』(内閣情報部、1938〜45)といったグラフ誌で写真を担い、国策プロパガンダの一翼を担うこととなる。しかし敗戦を迎えると、戦時の演出的な表現を深く反省し、新しい写真のあり方を模索。1950年頃からは現実をありのまま捉える「リアリズム運動」を精力的に展開し、多くの若手写真家へ大きな影響を与えた。

健康な身体、傷痍軍人の対比。戦後日本のリアルな姿を伝える

 土門がキャリアを打ち立て始めた頃、細江が誕生する。学生時代からすでに頭角を現していた細江は、大学受験を控えた17歳頃に「富士フォトコンテスト」で最高賞を獲得。第2章「細江英公登場」では、その受賞作であり、東京・成増の米軍キャンプ地で外国の子供たちを捉えた「ポーディちゃん」(1950)が展示されている。

 1952年に東京写真短期大学へ入学した後は、友人の画家・瑛九が主宰する「デモクラート美術家協会」に加入。河原温をはじめ、のちの現代美術界を牽引する異能たちとジャンルを超えた芸術論を交わした。さらに舞台やダンスにも深い関心を寄せてダンサーを精力的に撮影したほか、1956年には「プロは自分のテーマを持たなければならない」という思想のもと、フォトストーリー作品も発表している。

第2章「細江英公登場」の展示風景より、「ポーディちゃん」(1950)

 のちに細江作品を象徴することになる「人間の生命や肉体の輝き」「国際的な視座」「記録と美術としての写真の横断」「舞台的・演劇的な時空間」といった要素は、すでに初期から刻み込まれていたようだ。その軌跡は第2章をはじめ、第3章「おとこと女」、第4章「抱擁」からもうかがい知ることができる。なかでも第3章で紹介される「おとこと女」(1959〜60)は、暗黒舞踏の創始者・土方巽らダンサーたちを捉えた傑作であり、細江の出世作と言えるシリーズだ。

第3章「おとこと女」の展示風景
第4章「抱擁」の展示風景

 第5章「2つの『八章』-肉体と皮膚」では、土門が戦後間もない1940年代後半に手がけた実験的シリーズ「肉体に関する八章」「皮膚に関する八章」を取り上げる。写真表現における「新即物主義」的なアプローチでありながら、タイトルと対象の存在感をストレートに連動させ、観客の身体感覚へ直接訴えかけるような表現が試みられている。写真という媒体の限界を押し広げようとした、土門の強い意欲が伝わる展示だ。

第5章「2つの『八章』-肉体と皮膚」の展示風景
土門の「新即物主義」の影響は、第7章「千年の身体」で紹介される「古寺巡礼」シリーズにも見受けられる

編集部

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