配置の偶然性と陰影の強いライティング
本展では空間全体のいたる場所に柱やバスケット、帯の3つのエレメントが設置されているが、それらの位置に規則性は見られない。

柱やバスケットは、タトルが会場の見取り図の上に石を3つ投げ、落ちた位置やその位置を中心とした同心円上、またその交点に、帯は見取り図上の壁と床の関係性に準ずる位置に配置されている。偶然性を孕んだ配置には、タトルの本展が「分からなさに意味を見出す出発点であって欲しい」という意向が反映されている。


また、陰影の特徴的なライティングにも青木の「陰翳」に対する、あるいはタトルの「色彩」に対する哲学の影響が見られる。青木は「光と影は対立関係ではなく、互換関係にある」という考えのもと、タトルに谷崎潤一郎『陰翳礼讃』(1933)を読んでもらったという。青木は明るさと暗さのあいだの不安定さを意識し、本展の照明の位置や明度を設定した。


また、タトルは色彩を「量子力学的な光の知覚体験」と表現し、作品における色彩も照明の一種であると捉えている。明るさの異なる条件下では、同じ色でも知覚体験が異なるという観点から、彩り豊かな作品を制作するように、展示室の陰影を際立たせることに賛同したという。
鑑賞体験の一環としてのミュージアムショップ
同館内コリドールに移設されているミュージアムショップもまた、展示空間と接続した内容となっている。


現地では青木による、過去に作品に使用した台座でつくられた「Material Archive」シリーズや、ふたりによるイヤリングやキーホルダーといった数量限定商品が並ぶほか、ふたりによって選書された本を販売。商品はタトル制作の棚の上でディスプレイされ、ショップもまた展示空間の一部であるというコンセプトが徹底されている。
視線の上下がもたらす「そら」と「くう」
3つのエレメントはどれも高い位置に設置されているものが多く、鑑賞者は自然と視線を上へと移し、「空(そら)」を感じることができる。そして、再度下に視線を戻したとき、一度上を見なければ意識することのできなかった、「空(くう)」とも言える、何もない空間の意味を捉え直すことができる。本展ではそういった鑑賞者の視線の往還による発見が意図されている。

青木の解説では、建築と展覧会に共通する考え方は「新たに何かをつくるのではなく、自分か存在する前からすでに存在していた世界のあり方をどうリノベーションするのか」であり、本展は「すでに現れているものが、そこで現れ直す」という試みだという。また、タトルが「美術館のあり方やその開かれ方を問うゲートウェイ」と言及したように、本展は無意識に鑑賞者に生じていた美術館に対する固定概念を解体し、新たな認識を楽しむ余白を広く残していると言えるだろう。
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