福島市の福島県立美術館で、「福島アートアニュアル2026 世界 ⇆ わたし 庄司朝美/髙木優希」が7月5日まで開催されている。福島県ゆかりの若手作家を紹介するシリーズ「福島アートアニュアル」の第5回となる本展では、庄司朝美と髙木優希のふたりの画家を取り上げている。担当は同館学芸員の齋藤恵。

齋藤は本展を「世界と私たちとの関係を改めて見つめ直す展覧会として構想した」という。現実と仮想空間、身体と情報が複雑に交錯する現在、私たちは世界をどのように知覚しているのか。そして絵画は、その世界との関係をどのように映し出すことができるのか。異なる制作手法をもつふたりの実践を通して、その問いを静かに立ち上げる展覧会だ。
世界と向き合う、異なる2つの絵画実践
髙木優希は1994年福島市生まれ。「他者の私的空間である部屋」の写真から、紙や粘度による白いマケット(小型模型)を再構築したうえで、さらにマケットに光を当てながら撮影した像を油彩画へと転換するという独自の制作手法を展開。写真、マケット、絵画という複数のレイヤーを介在させながら、不在の気配や空間に宿る記憶、現実とイメージの関係を探究している。
いっぽう庄司朝美は1988年いわき市生まれ。透明のアクリル板やキャンバスを支持体に制作を行う。身体感覚に導かれるように絵具を置いては拭き取るという行為を重ねることで人や動植物などのモチーフを生成・変容させ、1つの画面のなかで、生と死、恐怖とユーモア、美と醜といった相反する感覚を共存させる。完成形をあらかじめ定めるのではなく、身体と絵具との応答を通して画面を生成していくその制作は、描くという行為そのものを世界と向き合う方法として捉えた実践行為と言えるだろう。
高木優希──「部屋」に宿る不在の気配
会場は髙木の展示から始まる。まず目に入るのは活動の初期に制作された《裏》と《表》(ともに2019)だ。このふたつは同じ構図のもので、前者がモノクロ、後者がカラーの2枚組の作品だ。

色調によって与えられる印象が異なることに着目した髙木は「カラーのほうは視覚的な見え方、モノクロの方は感覚的な見え方」というテーマを見出す。モノクロの作品が有する人の気配や緊張感は、のちに制作されることとなる「Room」シリーズの発想の起点となった。


展示室には各作品ごとにゆったりとした空間が設けられており、マケットの部屋を描いた「Room」シリーズと、そのモチーフとなった実際のマケットが並ぶ。無機質な青や淡いピンクを基調とした画面には、膨らんだ布団や散らかった机など、人が暮らした痕跡が残されている。そこに人物は描かれていないが、その不在ゆえに、誰かがそこにいた時間や生活が想像される。模型と絵画を見比べることで、鑑賞者は現実と模型、あるいは写真と絵画という複数の層を往復することになる。


マケットに特有の紙や粘土の質感は、絵画にも忠実に描かれており、粘土を指で押した跡や継ぎ目、直線的な紙のフォルムやその薄さが丁寧に表現されている。このように本シリーズに描かれている部屋はつくりものであることが強調され、部屋という「概念」であることが強調されている。また、ビデオゲーム内につくられた架空の部屋、あるいはインターネット上で目にする「リミナルスペース」といった「部屋」とも近いものが感じられる。その結果、現実の空間を描いた絵画ではなく、「部屋」という概念そのものを眺めているような感覚が生まれる。

丸や六角形の小さなサイズのキャンバスに描かれた「Peephole」シリーズ(2023)は、マケットの部屋を覗き見ている第三者になったような視点で描かれた作品群だ。マケットの部屋にはそこで生活する人などいないにも関わらず、鑑賞者はそこに漂う気配を感知し、つながりや関係性を意識させられる。髙木が可視化しているものは、「不在」であり、鑑賞者は多層的なプロセスによって「そこに存在したかもしれない世界」を画面のなかに見出すことができる。
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