人々や土地への祈りを捧げ、また歩き出す
石川県出身で現在は県外で活動をする前本彰子(1957〜)は、「祈る」というキーワードを象徴するようなアーティストだ。震災直後に制作された「宝珠神棚」シリーズの《青の天使》(2024)には、故郷への切実な祈りが込められている。
また、復興ソング「HOME〜Grace for All〜」を核とした金沢21世紀歌劇団による記録映像と舞台美術は、音楽と演劇が人々の心をつなぐ過程を伝えている。


最後のキーワード「歩む」では、珠洲市を拠点に活動するアーティストユニット「仮()-karikakko-」(新谷健太、楓大海 / ともに1991〜)のプロジェクトを紹介している。2人が活動の場とするのは、市内の銭湯「海浜あみだ湯」であり、現在この銭湯の湯を沸かす燃料には、地震で倒壊した家屋の廃材が使われている。2人はこの行為を街の「仮葬(弔い)」と位置づけ、失われた風景を弔いながら、同時にいまを生きる人々の憩いの場を守り続けている。


展覧会を締めくくるのは、モンデンエミコ(1979〜)による「刺繍日記」だ。自身の娘が生まれた2016年から綴られるこの記録には、震災という非常事態も日常の断片として縫い込まれている。ひとりの表現者の眼差しを通じて、災害と暮らしが地続きであること、そして困難のなかでも続いていく日々の尊さを、改めて胸に刻むことができる。

本展では、震災を悲劇として完結させるのではなく、震災という経験に向き合いながら、いまも進行しているアーティストたちの思考や対話に焦点を当てている。能登に息づく豊かな文化や、そこで育まれてきた人々の日常。彼らの眼差しが捉えたその姿は、報道とはまた異なるリアリティと体温を感じさせるものであった。



















