「向井山朋子 Act of Fire」(アーツ前橋)レポート。地下劇場を歩き、暗闇に眠る記憶を見つめる【4/4ページ】

 地下の回廊から地上階へ戻ると、暗闇に慣れた目で吹き抜けから底のような1階を見下ろすことができる。そこには、横たわった状態で音を奏でる2台のグランドピアノがあった。

展示風景より、《夜想曲/nocturne》(2011-)

 これらは2011年の東日本大震災で被災した宮城県石巻市のピアノであり、向井山と宮本は、このピアノを世界各地で展示するプロジェクトを続けてきた。震災から15年が経ち、当時の記憶や関心が薄れつつあるいま、暗闇で慣らした目でしか見えない場所にあるこのピアノは、現在の社会状況を象徴しているかのようだ。

展示風景より、《夜想曲/nocturne》(2011-)

 向井山が提示するインスタレーションは、鑑賞者の感覚に少なからぬ負担を強いるものばかりだ。しかし、鑑賞者自らが感覚を研ぎ澄まし、見ることや考えることを止めないことで、初めて見えてくるものがある。本展が提供する体験は、我々が現実社会と向き合う姿勢を問いかけるようでもあった。

編集部