「向井山朋子 Act of Fire」(アーツ前橋)レポート。地下劇場を歩き、暗闇に眠る記憶を見つめる【3/4ページ】

 アーツ前橋のなかでも最大の面積を誇る展示室。そこへ向かうには長い廊下を歩くことになる。正面にぼんやりと浮かぶピアノの姿に向かって歩みを進める体験は、どこか現実離れした感覚を抱かせる。その先に待つのは、2025年7月に期間限定で無料配信された映像詩《KOKOKARA》だ。

展示風景より、《KOKOKARA》(2025)
展示風景より、《KOKOKARA》(2025)

 スクリーンの役割をする蚊帳の奥には自動ピアノが置かれており、館内に響いていた音の正体がここにあることがわかるだろう。映像には、燃えるピアノ、向井山の出身地である和歌山県新宮市の「御燈祭り」の松明、ガザ地区の戦火などが重なり合う。向井山はこの空間を「ボイラールーム」と呼んでおり、作家の内にある怒りや悲しみ、抵抗の感情が、炎とともに昇華される場所としている。

《KOKOKARA》(2025)が投影された蚊帳の裏側に配置されたピアノ。破壊されたピアノの様子はあまりにも暴力的であり、崩れ落ちた鍵盤はまるで骨のようにも思えた

編集部