「向井山朋子 Act of Fire」(アーツ前橋)レポート。地下劇場を歩き、暗闇に眠る記憶を見つめる【2/4ページ】

 会場では、6つギャラリーをひとつの地下劇場に見立てた回廊型のインスタレーションが展開されている。

 展示空間に足を踏み入れると、そこにあるのは「闇」だ。一階の展示スペースは誰もが立ち入れる無料エリアだが、訪れた者は暗闇が支配するこの空間に戸惑いを感じるだろう。しかし、耳を澄ませると地下からかすかにピアノの旋律が聞こえてくる。その音源を探すため、鑑賞者は誘われるように地下空間へ降りていく。

1階展示風景より。展示室の中央にある吹き抜けの下は暗くてよく見えない

 地下へ降りる階段の正面で待ち受けるのは、モニターに映し出された赤く巨大な月だ。不吉な前兆とも浄化のしるしとも取れるこの象徴的な月を背に、鑑賞者は回廊の奥へと進むことになる。

地下へと降りる階段。正面のモニターには赤い月が昇るイメージが映し出されている

 暗闇にゆらりと浮かぶのは、代表作のひとつである《wasted》(2009)。夫をガンで亡くした向井山が、大切な人の死に直面しながらも、なお毎月流れ出ていた経血を衣服に記録した作品だ。血の滲む衣服を前に一瞬たじろぐものの、それが生命の証でもある経血であると理解したとき、不思議と緊張が和らぐ感覚を覚える。先ほど目にした赤い月のイメージが、本作とも呼応しているようにも感じられる。

展示風景より、《wasted》(2009)
《wasted》(2009)の展示風景。およそ2ヶ月に及ぶ会期中、向井山は会場を不在にしているが、その存在感は確かにあの空間のなかに感じられる

編集部