第五章 アヴァン=ギャルドの向かう先──戦後の芸術と共生の思想
20世紀、二度の大戦を経て芸術は再び社会との関係を問い直す。詩人ルイ・アラゴンの詩「バラとモクセイソウ」が呼びかけたように、信仰や思想の違いを越えた連帯が求められた。
戦後の「聖なる芸術」運動を推進したマリー=アラン・クチュリエ神父は、前衛芸術の光を聖堂へ導き入れた。ピカソの《平和の鳩》やシャガール作品に象徴されるのは、信仰を越えた人間的な聖性の探求である。

藤原氏は語る。「ライシテはたんなる宗教排除の原理として発展したわけではありません。民主主義社会のなかで、信仰も芸術も形と関係性を変化させながら大切な役割を果たしていきます」。
この章の締めくくりで、展覧会は戦後の平和と共生への願いを映し出す。芸術が再び人間の心の“信仰”となる時代へ──それは、ライシテの理念が美術の中に溶け込んだ瞬間でもある。
批評としての展覧会──「美術史」を問い直す
「ライシテ展」はたんなる歴史展ではない。藤原氏の言葉を借りれば、それは美術史そのものを問い直す批評的試みである。
「もしフランス美術史が国家の威光のもとで形成されたのだとすれば、私たちの拠り所となる美術史学自体も、ある種の“信仰”に基づいているかもしれません。ライシテを通してその構造を照らし出すことで、美術史のいびつさが見えてくると思います」。

さらに藤原氏は、地方の公立美術館という“公共空間”からこのテーマを発信する意義をこう語る。「政治権力が公金を使って運営する公立美術館にとって、民主主義社会における美術や美術館の役割というのはしっかりと向き合うべきテーマです。本展はそれをライシテという観点から検証しています。行政に関わる人、美術に興味のない人にこそ、関心を持ってほしいテーマなんです」。
この展覧会は、過去を扱いながら、現代社会の“共生”を問う。美術館そのものが「他者とともに考える場所」になっている。



















