月明かりの下で体験する「養⽼天命反転中!Living Body Museum in Yoro」。大巻伸嗣、evala、Neon Danceがコラボ【4/4ページ】

 地上に降りた太陽

 大巻は今回、天命反転の思想を基盤としたふたつの作品を発表。なかでも注目すべきは、「人工太陽」のような《A Continuum: Ladder》である。これは空にある太陽が地上に降りてきたかのような「もうひとつの太陽」を創造し、天体と地上、そして人間を結びつける試みだ。照明がすべて落とされ、月光に照らされた会場において輝く太陽は幻想的な美しさを放っていた。

大巻伸嗣《A Continuum: Ladder》の展示風景

 荒川自身も人工太陽の制作を構想していたが、実現しなかったという。そのため《A Continuum: Ladder》は、荒川が挑戦できなかったヴィジョンを現代において具現化する意義も持っている。強い光を放つ作品に近づくと、DNAの二重螺旋構造が浮かび上がってくる。これは、ミクロな単細胞生物から細胞、そして宇宙的な存在である太陽へと進化する生命の過程を象徴している。

大巻伸嗣《A Continuum: Ladder》の展示風景

 さらに会場のあらゆる場所に、ミラーバルーンの形をした《A Continuum: Dialogue》も設置されている。それぞれのミラーバルーンが周囲の自然を反射し、視覚的な「反転」を生み出していく。こうして空間全体が太陽系へと変貌し、来場者は「ここが宇宙になる」という稀有な体験を味わうことができる。パフォーマンスは太陽の消灯とともに終幕を迎え、観客は広がる星空と岐阜の山々を前にして、自然そしてこの地球の存在を改めて実感することになった。

大巻伸嗣《A Continuum: Dialogue》の展示風景

 養老天命反転地の30年間が育んだ思想と空間に、現代アーティストたちの新たな解釈が重なり合った今回の特別展。荒川修作が追求した「死なない」という壮大な実験は、次の世代へと確実に受け継がれていることを示していた。evalaと大巻伸嗣による展示は11月17日まで楽しめる。また11⽉15⽇、16⽇には、IAMASで教鞭をとる⾚松正⾏を招いてクリティカル・サイクリングのワークショップ「バランスからだ⾃転⾞」も開催される。30周年を迎えた養老天命反転地をぜひこの機会に訪れてほしい。

大巻伸嗣《A Continuum: Ladder》の展示風景

参考文献
塚原史『荒川修作の軌跡と奇跡』( NTT出版、 2009)
「荒川修作不死への挑戦(上)『死は時代遅れ』という宣戦布告」(日本経済新聞、 2025年10月12日)

編集部