避けられない宿命への挑戦
「死とは時代遅れである」と宣言していた荒川。彼が芸術家ではなく、死という宿命に立ち向かう革命家であった背景には、幼少期の象徴的な体験がある。荒川が5歳のときに太平洋戦争が始まると、翌年から生まれ育った名古屋市とその周辺は激しい空襲にさらされた。戦災犠牲者の遺体を見かけることが日常となり、死が身近な現実として幼い荒川の前に立ちはだかっていた。
もうひとつは、10代半ばの肺結核誤診の経験である。レントゲン写真を見た医師から肺に穴が開いていると告げられ、余命半年と診断された。ところが数ヶ月後、別の医師はその診断を笑いながら否定した。避けられない運命が一瞬にして覆った瞬間だった。
「天命」とはそうした避けられない死への定めを指す。それを「反転」させるとは、「死なない」という選択肢を創出することになる。養老天命反転地において荒川とギンズは、平衡感覚や遠近感を意図的に惑わせる体験を通じて、訪問者が固定化された身体感覚から解放され、人間として拡張された生を獲得することを目指したのである。

現代アーティストが解釈する「余命反転」
会場に足を踏み入れ、観客がまず向かったのは、evalaによるサウンドインスタレーション《perennial》が設置された養老天命反転地オフィスだ。十二単の羽衣を思わせる色彩豊かな建物の内部は、繊細なサウンドに包まれている。24色の外壁色がすべて内部にも反映された不規則な空間で、光とサウンドが複雑に絡み合い、視覚と聴覚の境界が曖昧になっていく。

一見、床が同じレベルに見えるが、実際はそうではない。渦巻く迷路を辿ると、人が隠れるほどの段差があることに気づかされる。《perennial》は、荒川とギンズが追求した知覚の撹乱を、より繊細かつ詩的な次元で表現している。空間に響き渡る音響は、建物の複雑さと共鳴し、観客の身体感覚をさらに混乱へと導いていく。
Neon Danceによるパフォーマンスもここからスタート。突然会場に現れたダンサーたちは、カオティックで唐突な動きを始める。時に壁に隠れ、その上に登り、観客の間をすり抜けていく。その予測不可能な動きは、この空間の持つ非日常性をさらに増幅させていた。そして最後、観客は「案内人」となったダンサーに招かれ、大巻伸嗣の作品が待つ「楕円形のフィールド」へ誘導される。




















