「art venture ehime fes 2025」が開幕。藝大と協働で落合陽一ら24組が参加【5/6ページ】

砥部町エリア・砥部ミュージアム通りゾーン

 焼きものの街としても広く知られている砥部町。大小さまざまなミュージアムが点在する大南地区にある特設会場には、5組の作家による作品が展示されている。

 会場の入口に設置された作品は、台湾から参加した林靖格(リン・チンケ)が竹を用いて手がけたインスタレーション作品《倉波青漾(くるなみせいよう)》。砥部焼の呉須(藍色)の筆致や唐草文様に着想し、円形編みの竹で流動する線を空間に描いた。床には砥部焼の欠片が円を描き、陶と竹による空間的な協奏が生まれている。

展示風景より、林靖格《倉波青漾(くるなみせいよう)》

 幻想的なペインティング作品で知られるアーティストの古武家賢太郎と、グラフィックデザイナーの尾崎強志が手を組み、地域のデザインやディレクションを行うデザインユニット「IGIRIS」。地域の子供たちと砥部の町を歩き、そこで自分がときめいたものを発見して新しい砥部焼の紋様をデザインするワークショップを行った。

古武家賢太郎

 子供たちが日常の通学路から新たな魅力を発見し、作品に描くことでそこに思い入れをもつことはこのプロジェクトの最大の成果だといえるだろう。古武家が手がけた作品、子供たちが手がけた作品、古武家と子供たちが共同で手がけた作品が上段から1段ずつ並び、それぞれに地域の魅力とともに砥部焼の魅力を再創出している。

展示風景より、IGIRIS《とべまちもよう》

 アニメーション作品を手がける小椋芳子は、地域の人々の「記憶」のリサーチをベースに制作を開始。器に刻まれた時間を通して、家族の記憶や日々の暮らしの多様で暖かなあり方をインスタレーション作品《眼差しの器》に表現した。

《眼差しの器》のコンセプトを説明する小椋芳子

 タイ出身のアーティスト、プープラサート・デュアンチャイプーチャナも「記憶」をテーマに作品《Memories of the Earth》を手がけた。農地や共同体の営みといったものの痕跡として、土に着目。脆さと強さを併せもつ土の自然に生じるひび割れや痕跡が、時間の流れ、無常、変化を象徴し、大地は人間の生活を支え、物語を刻んできた「共有の記憶」であることが示されている。

展示風景より、プープラサート・デュアンチャイプーチャナ《Memories of the Earth》

 会場の2階に移動すると、スイス連邦工科大学チューリッヒ(ETH)で博士課程研究・建築設計スタジオの指導にあたる中本陽介の展示が行われている。3週間ほど滞在し、土地のリサーチと陶板制作を行った。中本は次のように説明する。

 「砥部に滞在し、伊予鉱業所さんという掘削業者の協力によってリサーチをしたことで、土地の景色と焼きもの文化との密接な関わりに気づきました。砥部の地下には中央構造線という地層が走っており、磁器の原料となる陶石という白い石が採取されます。そこで展示の目的として、焼きものづくりの文化を、原料を採取する山につなげていくことができないか、還元していくことができないかと考えました」。

 マグマの運動でどのように土の脈動が生まれ、特別な質の陶石が誕生したのかというリサーチから、土に水を混ぜて粘土にする過程など、4つのチャプターに分けて展示が行われている。壮大な時間の流れと砥部焼文化の伝統とのつながりが、陶板や写真、テキストなどの立体的な展示によって明示されている。

展示風景より、中本陽介《Tobe’s Stratified Memory(砥部町の地層的な記憶)》
中本陽介

編集部