地域に根付くアートを掘り起こし、光らせたい。「ルーツ&アーツしらおい」4年目の挑戦

北海道白老町を舞台に「ルーツ&アーツしらおい」が11月1日まで約1ヶ月半にわたって開催されている。白老に根付く文化や伝承、人々の営みを、アーティストの多種多様な表現を通してとらえ直し、再発見していこうとする4年目の挑戦をリポートする。

文=來嶋路子

野生の学舎《交信 “Correspondence”》 撮影=筆者

 北海道の南西部に位置する白老町は、アイヌ文化の発信拠点である民族共生象徴空間「ウポポイ」があることで広く知られ、海もあり森にもかこまれた、自然豊かなまちだ。

 この地域を舞台に毎年開催されているアートプロジェクト「ルーツ&アーツしらおい」は、今年で4年目。通年で公開されている4つの常設展示に加え、今年は7つの展示や活動が展開されている。

美術という概念が生まれる以前から柱を立てるという行為があった

 このプロジェクトが投げかける「ルーツ」というテーマを制作の重要な起点としている作家をまずは紹介したい。

 3年連続の参加となる野生の学舎は、新井祥也が主宰する活動体で、洞爺湖を拠点に自然の中でのフィールドワークを通じて、創作の根源を見つめようとしている。

 昨年、野生の学舎は社台海岸に巨大な流木を運び、螺旋のような文様をノミで2週間にわたって彫り続け展示した。この流木を柱として海岸に立てるという2年越しの取り組みが、今年行われることとなった。

 「柱を立てるという行為は、美術という概念が生まれる以前の時代から世界各地で行われてきました。人間の表現行為の始まりは、どこにあったのか。おそらく個人的なものではなく集合的な営みの中から生まれていったのではないか」。

野生の学舎《交信 “Correspondence”》。草原に続く真っ直ぐの道をたどっていくと海岸が現れる
撮影=筆者

 白老をリサーチするなかで偶然にも海岸に続く道を見つけ、この場所を知った。道の整備をしていたのは、すぐ脇に住んでいた工務店を営む久保一美さん。久保さんは野生の学舎の制作に興味を示し、ともに作品制作を行うこととなった。

  昨年ノミを振るった流木に加え、今年はさらに4本を社台海岸に集めた。流木を移動させ、それを砂浜に立てるのは困難を極めたが、こうしたプロセスを通じて「柱を立てるという原初的な営みの中に人類はどのような想いを重ねてきたのか」という問いを野生の学舎は深めていった。

野生の学舎《交信 “Correspondence”》。昨年、ノミで彫跡をつけた流木。根を上にしており天地が反転している
撮影=筆者
野生の学舎《交信 “Correspondence”》。ホッキ貝を円形に敷き詰め、鯨と鹿の頭骨が向かい合わせになって配置されている
撮影=筆者

 「南側に海があり、北には樽前山が一直線にあって、ここは山と海をつなぐ場所であることを発見しました。柱とは何かを分けるための線ではなく、宇宙的な媒介であり、何かをつなぐものであると思います。天と地、人と自然、あの世とこの世、あらゆる境界を超えて1つに溶け合い、それぞれの時間や記憶を巡るきっかけの場所になればと思います」。

野生の学舎《交信 “Correspondence”》。海側から柱に向かうと、一直線上に樽前山が見える
撮影=筆者

編集部

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