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「おさんぽ展 空也上人から谷口ジローまで」(滋賀県立美術館)レポート。散歩を起点に見る多様な表現【5/5ページ】

 「おさんぽ展」の特筆すべき点は、中世の仏教美術から近代洋画、現代アートやマンガまでを1つのテーマでつないだ点である。「散歩」という普遍的な行為を切り口にすることで、宗教的実践、都市文化、芸術的創作、そして私たちの日常が一本の道筋としてつながって見えてくる。展示作品群は数の上では決して多くはないが、その密度と広がりは驚くべきものである。

左から、松浦舞雪《花摘みの図》(1914、株式会社星野画廊)、田代正子《娘》(1940、株式会社星野画廊)、柳江《夏苑の少女》(20世紀 大正時代、株式会社星野画廊)

 さらに本展は、鑑賞行為そのものが「散歩」であることを気づかせてくれる。来館者のなかには万歩計を付けて鑑賞を楽しむ人もいる。音楽や演劇のように座席に身を委ねる芸術とは異なり、美術館鑑賞は自ら歩き、立ち止まり、戻り、角度を変えて作品を観る能動的な体験である。つまり「歩くこと」は展覧会鑑賞の根底に流れる行為であり、本展はそれをテーマに据えることで、美術館体験の本質を可視化した。

重要文化財《西行物語絵詞》(13世紀 鎌倉時代、国(文化庁保管)) ※展示期間: 9/20-10/19 撮影=筆者

 滋賀県立美術館の展示室を一歩ずつ巡ることは、そのまま「おさんぽ展」の主題と重なり合う。展示を見終え、美術館を出た後に広がるのは、公園を歩く市民の姿である。館内外の散歩が連続する体験は、訪れる者の感覚を揺さぶり、日常の歩行を新たな意味づけとともに返してくれる。

 「おさんぽ展」は、美術を鑑賞すること自体が「散歩」であると再認識させる稀有な展覧会である。秋の風に誘われて歩きながら訪れるのにふさわしい本展で、ぜひ“アートさんぽ”の魅力を味わってほしい。

編集部