第3章「街へ出かける」
19世紀以降の都市散歩文化に焦点を当てた章である。ピサロ《ロンドン、ハイドパーク》(1890年、東京富士美術館蔵/前期展示)は、都市の遊歩が市民生活の象徴であることを示す代表作である。浅井忠がパリで歩きながら描いたスケッチや、『新東京百景』に描かれた震災後の東京に繰り出す人々の姿は、都市再生の歩みと人々の営みを重ね合わせている。いっぽうで今和次郎が井の頭公園で観察した、人々の憩いの場と自死の場が重なる現実は、街歩きが社会の矛盾を照らし出すこともあると教えてくれる。都市の散歩は華やかさだけでなく、時代の影も抱えていたのである。

第4章「歩く人たち」
ここでは散歩以前の歩行の歴史が取り上げられる。重要文化財《空也上人立像》(鎌倉時代、荘厳寺蔵)は、念仏を唱えながら諸国を歩いた空也上人の姿を生々しく伝える。歩行は信仰の実践であり、人々の救済を祈る行為であった。西行物語絵詞(前期・後期で展示替え)は、放浪の旅を続けた西行の歩みを壮大な風景の中に描き出す。与謝蕪村《松尾芭蕉経行像》は、一歩一歩を踏みしめる「経行」という修行法を題材にし、歩行の精神的側面を示す。歩くことが宗教的修養や精神的探求と結びついていたことが改めて浮かび上がる。




















