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「日比野克彦 ひとり橋の上に立ってから、だれかと舟で繰り出すまで」展(水戸芸術館現代美術ギャラリー)開幕レポート。日比野克彦の「ひとり」から「だれかと」へ【3/4ページ】

 第4章「つながりを求める手つき」では、日比野が他者とともに表現をつくり上げていく〈共創〉の原点とその展開をたどる。

 その出発点とも言えるのが、1988年に刊行された絵本『えのほん』である。ミキハウスの企画により制作された本書は、読者である子供とのコラボレーションを前提としてつくられた。日比野にとって、絵を描くという行為は何より「誰かに会いたい」「つながりたい」という気持ちに根ざしたものであることが感じられる。

展示風景より、壁面は『えのほん』の原画

 展示室では、『えのほん』の原画358点が壁一面に展示され、あわせて実際に公募で集まった子供との合作絵本16冊も紹介されている。見ず知らずの誰かとの対話から作品が生まれていくプロセスが、丁寧に提示されている。

展示風景より、子供との合作絵本

 また、2002年に茨城県で開催されたワークショップ「on the bridge」も本章の重要な柱となっている。日比野は参加者に「今と自分をつなぐ橋」をテーマに橋のかたちを制作するよう呼びかけ、それらを自身の《忠節橋》や《萱場の橋》と組み合わせて展示(「12人の挑戦—大観から日比野まで」2002年、水戸芸術館現代美術ギャラリー)。橋というモチーフは、空間的な隔たりや時間的な断絶を越えて「だれか」とつながる象徴として、日比野の活動に幾度も登場してきた。

展示風景より

 本展では、その2002年の《on the bridge》に加え、新たに来館者による橋の作品も募り、2025年版の《on the bridge》として展示空間を更新。十人十色の橋が集まるインスタレーションは、日比野芸術の根底にある「共にあること」への信頼を、視覚的に提示するものである。

展示風景より、2025年版の《on the bridge》の制作コーナー

 第5章「日比野克彦 年譜」では、作品展示だけでは伝えきれない日比野の活動の全体像を、年譜形式で紹介する。本章はたんなる経歴紹介にとどまらず、日比野の“振る舞い”に注目することで、その芸術実践の広がりと社会的影響力を浮き彫りにしている。

展示風景より

 とりわけ2000年代以降、日比野はアートプロジェクトの監修者、2010年代には美術館の館長、そして2020年代には大学長として、美術を社会にひらく多彩な実践を重ねてきた。こうした役割のなかで、彼の表現は「作品」にとどまらず、人と人との関係性や制度、場そのものにまで働きかけるものへと拡張している。

 年譜では本人への取材に加え、ともに活動してきた学生やスタッフ、プロジェクト関係者へのインタビューも交え、絵本や漫画の形式を取り入れながら、日比野の軌跡を多層的に読み解いている。関連図版や資料も豊富に展示されており、作家の意志が社会のなかでどのように作用してきたかを、来場者が直感的に理解できる構成となっている。

展示風景より

編集部