第3章「画家がつくる写真」では、実際に藤田が各国各地で撮影した写真を展示している。とくに藤田が晩年を過ごしたアトリエに保管されていたという数々の記録写真は、被写体のみならず、構図や陰影の意識など、スナップフォトとして強度を持っているものも多い。

また、東京藝術大学に保管されている藤田のカラー写真も魅力的だ。街にあふれる色彩をとらえ、巧みな構図で写し取った作品群は、木村伊兵衛をはじめ様々な写真家からも評価された。

エピローグ「眼の記憶/眼の追憶」は、戦後、戦争協力への批判にさらされ、パリへと移った晩年の藤田にスポットを当てる。阿部徹雄、清川泰次らの写真に映る藤田は、穏やかな晩年の姿を湛えている。家族との関係性が垣間見える写真も多く、晩年の藤田が自身を家族という存在から見つめ、ときに絵画のモチーフにしていった様子もうかがえる。

本展を見ると、誰もが知るところの画家・藤田嗣治という像が、写真なくしては成立していなかったかのような印象さえ受ける。写真という20世紀の文化を大きく変えたメディアとひとりの画家との関わりを真剣に見つめ、研究の新機軸を示す展覧会と言えるだろう。




















