昨年オープンした長野・軽井沢にある軽井沢安東美術館は、日本で初めて藤田嗣治の作品のみを常設展示する美術館だ。本館で開催中の、開館記念展に続く展覧会「藤田嗣治 猫と少女の部屋」についてレポートする。
本館は安東泰志と恵の夫妻が約20年にわたり蒐集してきた藤田の作品約200点をコレクションしている。「藤田嗣治 猫と少女の部屋」はそのなかでも夫婦が藤田に魅せられる契機となった、猫や少女を描いた作品群に焦点を当てたものだ。
展覧会は、コレクションを通して藤田の画業を追うかたちで進む。「乳白色の下地」で知られるエコール・ド・パリ時代、30年代の中南米への旅と帰国、50年代のパリ再訪と聖母子像への傾倒など、藤田の画業が見渡せるかたちで作品が並ぶ。
最後の部屋となる第5展示室が「猫と少女の部屋」と名打たれ、40点以上の作品が並ぶ本展の白眉となる。展示室にはソファーや調度品が置かれ、まるで安東家のリビングを思わせるような構成となっている。
この部屋のテーマとなっている「猫と少女」は、安東夫妻のコレクションの成立と密接に関わるモチーフだ。夫妻のコレクションの始まりは、散歩の途中にギャラリーで偶然出会った藤田のエッチング《『魅せられたる河』より ヴァンドーム広場》(1951)だった。本作に描かれた猫の愛らしさに魅せられた夫妻は、その後「猫」とともに「少女」という愛らしさの中に強さも見いだされるモチーフの作品をコレクションしていく。
なかでも《猫の教室》(1949)は、今回初めて披露される貴重な作品だ。敗戦後に戦争責任を問われた藤田は、ニューヨークを経由してフランスに戻ることとなる。このニューヨークの滞在中に描かれ、マシアス・コモール・ギャラリーの個展で出品されたなかの一点だ。擬人化された猫たちが教室で豊かな表情を見せる本作は、戦争が終わり、未来に臨む子供たちの学び舎というモチーフを、猫を主役にユーモラスに描いたものといえよう。
また《パリの屋根の前の少女と猫》(1955)は、パリに戻った藤田が、2匹の猫とともに正面を見つめる少女を描いた作品だ。少女の背景で立ち上る煙突の煙は、遠くなりつつある華やかなエコール・ド・パリの時代を想起させ、藤田が懐かしさとともにパリの街並みを描く様も想起させる。
ほかにもこの展示室では、藤田が描いた猫や少女の作品が並ぶ。ソファに腰をかけながら、藤田の優しくもするどい眼差しを楽しみたい。
世界的な観光地である軽井沢の地で、藤田の足跡をたどる本美術館。猫と少女という誰もが親しみを感じるテーマで、藤田を再発見してはいかがだろうか。