展覧会タイトルの「点P」とは、数学の問題に用いられる「任意の点P」を「人それぞれの感覚を代入することができる点」と読み替えたものだ。使う関数によって異なる「点P」が導き出される、つまり、同じ経験をしてもそこに生まれる個々の感受は様々に異なる、という展覧会のコンセプトが込められている。

門は本展のねらいについて、次のように語った。「日常においては、物事を結論を求めながら見てしまうことが多い。そうした既存の概念にとらわれず、様々な分野において結論を求めないリサーチを実施してきた。本展が、一人ひとりの感覚の違いをそのまま『点P』として受け入れる試みになれば」。

公園通りに面したガラス張りの展示室Aでは、壁面を中心に光島の作品《さやかに色点字―中原中也の詩集より》(2023-24)が展示されている。これらはすべて触れることができる。木材に釘や鋲などを打ち、そこに光島が「色点字」と呼ぶアクリル絵具とボンドでつくった隆起物を付着させた作品群だ。これは、光島が高校時代に親しんだ中原中也の詩篇から印象に残る一行を選び制作した。

10歳の頃に失明した光島は、それ以前にかろうじて見えていた色の記憶がある。そのため、文字を思い浮かべるとき、幼い頃にかすかに見えていた色が、共感覚として想起されるそうだ。本作はこうした色の記憶を言葉にひもづけようと試みており、さらに釘をはじめとした素材の集合に触れることで、手の感覚ともリンクする。中原中也の詩の断片に、文字とは異なる方法でアクセスすることを可能とした作品群だ。
