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「今村遼佑×光島貴之 感覚をめぐるリサーチ・プロジェクト 〈感覚の点P〉展」(東京都渋谷公園通りギャラリー)開幕レポート。目で見るだけでは見えないものを探して【3/4ページ】

 展示室AとB、Cをつなぐ廊下には、今村の映像作品《詩に触れる》(2023)が展示されている。今村は光島の所有する、ピンが上下に動いて点字を表示することができるツール「点字ディスプレイ」を使用して本作を制作した。映像には、今村が高校時代に影響を受けたという詩(それは有名な詩であるが詩人の名や作品名は伏せられている)を、点字ディスプレイで表示する様が映る。詩の内容を理解できるのは、点字を読むことができ、そして目が見える人だけだ。ここで志向されているのは、詩のとらえ方の多様性の提示だろう。詩を感受する手法は、いつだって多様なのだ。

展示風景より、今村遼佑《詩に触れる》(2023)

 廊下の先にある展示室Bの中央にはトイピアノが置かれ、そこから伸びたコードが床に置かれたバケツや電気スタンドなどにつながっている。これは、今村の作品《プリペアド・ピアノ》(2025)だ。

展示風景より、今村遼佑《プリペアド・ピアノ》(2025)

 プリペアド・ピアノとは、弦に金属や木材などを挟むことで音色に変化をつける手法のことだ。今村はこのプリペアド・ピアノの概念を拡張し、トイピアノの弦を、聴覚だけでないものにも訴えるものにつなげた。来場者がトイピアノの鍵盤を叩くと、周囲にあるLEDランプやスタンドのランプが光ったり、バケツや時計の音が鳴ったりする。それだけではなく、この鍵盤は別の展示室の仕掛けにもつながっており、作動しているときには直接見ることができない動きともつながる。光を見ることで音を感じたり、音が見えない場所で表出したりすることで、音そのものの概念をゆるがしている。

展示風景より、今村遼佑《プリペアド・ピアノ》(2025)

 また、この展示室Bの壁面には、光島の作品が展示されている。「目が見えなくなる前に色を憶えていたい」という、10歳当時の自身の思いを表現した作品や、対象の大きさを知るためにその周囲を触れながら周回するときの運動性を表現した作品など、光島が世界をとらえようとする手法が、小さな世界に結晶化している。

展示風景より、光島貴之の作品
展示風景より、光島貴之《速く歩いて記憶に残す》(2024)

 さらに、部屋に置かれたテーブルでは光島と今村のリサーチの記録が紹介されている。光島のアトリエの近所にあるという大徳寺の石庭を、光島が今村の言葉とともに見る《石庭をみにいく》(2022)、音のついたピンポン玉で行う卓球、スルーネットピンポンを体験する《スルーネットピンポン体験会》(2024)など、ふたりのリサーチは多岐にわたる。

展示風景より

 また「見えない人や見えにくい人が審査員になる美術コンペがあってもいいのではないか」という発想から生まれた、今村と画家・高野いくのによる企画「手でみる彫刻コンペティション」(2025)の受賞作品も、布の下から手を差し入れて触ることで体験できる。

展示風景より、「手でみる彫刻コンペティション」(2025)

編集部

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