スペイン北西部の都市パレンシアのハイストリートにある銀行のファサードを飾っている女性像が、素人の修復家によって修復不可能なほどのダメージを受けた。
「The Art Newspaper」によると、1923年に初めて公開された同作は、かつて家畜の牧歌的な風景の中で微笑む女性が描かれていたもの。地元の画家アントニオ・グスマン・カペルによるフェイスブックの投稿では、「ポテトヘッド」や「ドナルド・トランプ」「漫画」などという保護活動家や美術愛好家から怒りの声が上がっている。
スペインの美術保全協会(ACRE)はツイッターに「プロの修復ではない」と書き込んでおり、パレンシアを拠点とする保存修復家イラノス・アルグドは、「修復は修理ではない。修復は、国際的に承認された基準に従わなければならないし、IPCE(スペイン文化遺産協会)やスペインに存在するほかの認定機関が適用している基準にも従わなければならない」とコメントしている。
スペインでは近年、美術品が修復で台無しになってしまうという事例が度々起こっている。北東部の都市ボルハでは2012年、《この人を見よ》と題された19世紀の壁画が地元の高齢女性による「修復」作業によって大きなダメージを受けた。その結果、同作は「サルのキリスト」として世界的に知られることとなった。
また北部ナバラ州の教会は18年、16世紀の木彫りの聖ジョージ像の清掃を美術教師に任せたあと、その容貌がおもちゃのフィギュアのように変えられた。さらに今年7月には、ヴァレンシア地方のコレクターがバロック時代の画家バルトロメ・エステバン・ムリーリョの作品の複製画を家具修復業者に依頼した結果、作品が様変わりされた事件もあった。
BBCニュース・ジャパンによると、スペインには現在、専門家以外が芸術作品を修復することを禁止する法律はないという。こうした事件がよく発生する原因について、ACREは今年7月に発表した声明文でこう指摘している。「保全・修復の専門家は近年、仕事に恵まれず、海外へ拠点を移したり廃業したりせざるを得なくなっている。その結果、この分野のビジネス構造は現在、弱体化しており、今日我々が経験している悲惨な危機によってさらに悪化している。保全・修復の専門職は脆弱であり、スペイン全土で消滅する深刻なリスクにさらされている」。