ペットの代表格である犬と猫は、古くから日本の絵画に描かれてきた。近代以降も、画家たちが自らの愛犬、愛猫をモテーフにした作品は少なくない。そんな犬と猫にフォーカスした特別展「犬派?猫派? ―俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで―」が、東京・広尾の山種美術館で始まった。会期は7月7日まで。
本展は「ワンダフルな犬」「にゃんともかわいい猫」、そして特集展示の3パートで構成。、犬と猫を題材としたバラエティに富む作品が並ぶ(総出品点数58点、一部展示替えあり)。
第1章の筆頭は、本邦初公開となる2曲1隻《洋犬・遊女図屛風》(個人蔵、江戸時代)だ。これは当時、日本では珍しかった洋犬を描いた貴重な作品。作者は不明で、描かれている犬からはダックスフンドに似た特徴を見出せる。
琳派の祖・俵屋宗達は水墨によって子犬図を多く手がけたことで知られる。本展出品作の《犬図》(個人蔵、江戸時代)は、子犬の模様がたらし込みよって表現されている。
円山応挙の《雪中狗子図》(個人蔵、1784)と長沢芦雪《菊花子犬図》(個人蔵、江戸時代)は、ともにじゃれあう子犬の様子が見事に描かれた良作。師弟関係にあった二人の子犬表現を見比べてみてはいかがだろうか。
伊藤若冲の《狗子図》(個人蔵、江戸時代)は白と黒の2匹の子犬のくっきりした対比が目を引く作品。また《子犬図》(個人蔵、江戸時代)は右幅に箒と子犬、左幅に手箕の中で休む子犬3匹を描き、対幅で構成した珍しい作品だ。
また、愛犬家で知られる川端龍子からは、自らの愛犬ムクとモルをモデルに描いた、《立秋》(1932)と《秋縁》(1947、ともに大田区立龍子記念館蔵)が並ぶ。
第2章「にゃんともかわいい猫」における名作といえば、山種美術館所蔵作品のなかでも一、二の人気を争う竹内栖鳳による《班猫》(重要文化財、1924)が挙げられるだろう。近代京都画壇を牽引した栖鳳による名作として知られる本作。静岡の沼津で偶然出会った猫に惹かれた栖鳳は、その猫を貰い受け、丹念な観察と写生を通して作品を完成させた。高い写実性と伝統的な絵画表現が融合したまさに傑作だ。ポーズを取らせるために猫の背中に蜂蜜を塗ったという逸話も残る。
時代を遡り、江戸時代の愛猫家といえば歌川国芳だ。国芳は絵を描くときも懐に猫を入れていたという。猫に関連された語呂合わせで東海道の宿場名を様々な猫のポーズに置き換えた《其まゝ地口猫飼好五十三疋 》(個人蔵、1848頃、前期展示)をはじめ、計5点を前後期で見ることができる。
さらに今回は現代美術からも作品が出品。山口晃による《捕鶴圖》(山種美術館蔵、2014)は、擬人化された猫たちが鶴を捕まえようとする様子を即興的に描いたもの。猫それぞれの個性までも描き出した画力に注目だ。またSeed山種美術館日本画アワード2024で奨励賞を受賞した小針あすかによる《珊瑚の風》(作家蔵、2023)も並ぶ。
なお本展で最後(トリ)を飾る特集展示は花鳥図。ミミズクを描いた横山大観の《木兎》(山種美術館蔵、1926)をはじめとする作品からは、画家たちの鳥への温かな眼差しを感じられるだろう。