1887年に「新古美術会」と題して、京都御所の御苑内で開催された京都博覧会。この博覧会に明治天皇が行幸した際、煎茶と献茶の席が設けられた。この抹茶席の席主を務めたのが、三井家総領家当主の9代高朗と10代高棟だ。三井記念美術館で始まった「国宝 雪松図と明治天皇への献茶」は、このときに使用された三井家伝来の茶道具を中心に、館蔵品を紹介する展覧会となっている。
本展の目玉となるのは、円山応挙の代表作のひとつであり、唯一の国宝に指定されている《雪松図屏風》(18世紀)。三井家の特注品として制作されたものと思われ、明治天皇への献茶という晴れの舞台で展示されたことが記録されている。
献茶の際に、実際に明治天皇が喫茶した茶碗が、永樂和全《赤地金襴手法王天目》(19世紀)だ。胴に花唐草文、見込には鳳凰の浮文を施したうえに、赤地金彩と鳳凰、青海波・宝尽文を描いた茶碗で、この献茶のために和全に焼かせたものだという。他にも朝鮮半島で日本向けに焼かれたとされる《御所丸茶碗》(17世紀)や、樂長次郎《黒楽茶碗 銘メントリ》(16世紀)など、献茶の当日、天皇に供奉した歴々が使った名碗も展示されている。
さらに、『千載和歌集』に載る源俊頼朝臣の和歌「うかりける……」を鎌倉時代に藤原定家が筆した小倉色紙の掛け軸や、辻与次郎作と伝わる桃山時代の《日の丸釜》(16世紀)、景徳鎮窯の《祥瑞松竹梅花鳥問答締水差》(17世紀)や龍泉窯の《青磁遊鐶杓立》(16世紀)など明時代の器をはじめ名品がそろい、華やかな茶席に思いを馳せることができる。
また1890年、京都府高等女学校に明治天皇皇后が行啓するのに合わせ、三井高朗と高棟が設けた献茶の席の品々も展示。玉座に掛けられた円山応挙《福禄寿・天保九如図》(1790)や、皇后への献茶で用いられた永樂和全《白地金襴手鳳凰文天目》(19世紀)、広間の床(とこ)に掛けられた沈南蘋《花鳥動物図》(1750)の2幅などが展示される。
年末年始の三井記念美術館の展覧会において、恒例となっている国宝《志野茶碗 銘卯花墻》(16〜17世紀)も展示されている。桃山時代に美濃の牟田洞窯で焼かれたもので、日本で焼かれた茶碗で国宝となっている2点のうちの1点となるこの名品。その存在感を、茶室を模した空間で確かめることができる。
他にも、三井家伝来の数々の美術品や茶道具を目にすることのできる本展覧会。年末年始にぜひ訪れてみてはいかがだろうか。