2024.3.5

伊藤若冲の新発見。絵巻《果蔬図巻》を福田美術館が公開

京都・嵐山にある福田美術館が、新たに発見された伊藤若冲による絵巻を初公開した。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

新たに発見・収蔵された伊藤若冲《果蔬図巻》(1791)
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 今年開館5年を迎える京都・嵐山の福田美術館が、伊藤若冲作(1716~1800)の新発見の絵巻を披露した。

 伊藤若冲は言わずと知れた江戸時代の絵師。京都の青物問屋「枡屋」の長男として生まれ、裕福な環境のもと、独学で作品を制作した。その作風は細部まで描き込まれたものが多く、極彩色で彩られた絹本着色の作品や、即興的な筆遣いとユーモラスな表現が特徴の水彩画は、日本美術史上でも異彩を放つ。

 今回披露された作品は1791年、若冲が76歳のときに描いた全長277センチ(跋文を加えると332センチ)あまりの絵巻で、《果蔬図巻(かそずかん)》と名付けられた。若冲としては珍しい絹本着色で、若冲ならではの美しい色彩を用いて様々な種類の野菜と果物が描かれた絵巻だ。

福田美術館で披露された伊藤若冲《果蔬図巻》(1791)

 本作はもともとヨーロッパの個人が所蔵していたもの。2023年2月に大阪の美術商から福田美術館に画像確認の依頼があり、7月に真贋鑑定を行ったうえで、同年8月にオークション会社経由で所有者から購入したという。その後、4ヶ月をかけて剥落などの応急処置が実施された。

 福田美術館学芸課長の岡田秀之は、「まさかこんなものがあるとは思っていなかった」という。問題となるのは真贋だが、岡田は本作を真筆とした理由として、巻末の署名や印が他の作品と一致すること、翌年に描かれた《菜蟲譜》と表現技法が酷似していること、そして若冲と親しくしていた相国寺の僧・梅荘顕常の跋文があることなどを挙げている。

福田美術館学芸課長の岡田秀之
巻末の署名と印

 詳細を見ていこう。この大作は菊の花と思われるものから始まり、柑橘類や林檎、瓜、茄子、茗荷、葡萄、枇杷、柘榴、糸瓜、蓮根、スモモ、百合根、サボテン、ホオズキ、トウモロコシ、柿、桑の実、南瓜、冬瓜など、じつに40種類におよぶ果物や野菜が描かれている。これらが四季に関係なく、「若冲の好きなように」(岡田)配置されている点が特徴的だ。また、描かれた野菜や果物の大部分や彩色法は《菜蟲譜》と共通するという。

伊藤若冲《果蔬図巻》(1791)の部分
伊藤若冲《果蔬図巻》(1791)の部分
伊藤若冲《果蔬図巻》(1791)の部分

 巻物の最後には上述の梅荘顕常が直筆で書いた跋文があり、そこで本作を讃えるとともに、顕常と若冲の旧知である大阪の森玄郷という人物からの依頼で描かれたこと、森の没後に息子の嘉続から跋文の依頼を受けたことなどが記されており、貴重な資料ともなっている。

伊藤若冲《果蔬図巻》(1791)の跋文

 本作について、辻は「色の対比をきちんと考えた彩色が興味深い。初々しさを感じる」とのコメントを寄せている。また岡田は、「一つひとつ彩色が施された果物や野菜は、若冲の確かな観察眼と優れた描写力によって描かれている。70代の彩色された作品は数が少ない。比較検討することで若冲の絵の面白さや画業があたらめて検討できる材料として非常に貴重な作品」と評しつつ、こう語る。「晩年の若冲がこれほど綺麗な絵を描いていたというその感覚の瑞々しさを見ていただきたい。若冲の野菜に対する愛情も感じられるのでは」。

 本作は、福田美術館が新たなコレクションとして収蔵。今年10月12日に開幕する企画展「開館5周年記念特別展 京都の嵐山に舞い降りた奇跡!伊藤若冲の激レアな巻物が世界初公開されるってマジ?!」展にて一般公開される。