「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2024」開幕レポート

2018年の初回以降、毎年開催されているアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO」(以下、AFK)。7回目となる「ARTISTS' FAIR KYOTO 2024」がスタートを切った。会期は3月1日〜3日(音羽山 清水寺でのアドバイザリーボードによる展覧会は3月10日まで)。

文=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、志賀耕太《SPIRAL JETTY MONJA》 撮影=橋爪勇介

44組+アドバイザリーボードが参加

 日本を含め、世界各地でアートフェアが増加し、フェア疲れの声も聞こえる。ワールドスタンダードである「ギャラリーブース」はニュートラルに作品を鑑賞できるいっぽうで、フェアの特色を出すのは難しい。そうした状況のなか、アーティストが自ら出展し、プレゼンテーションを行うというユニークな形式を貫いてきた「ARTISTS' FAIR KYOTO」が、7回目の開催を迎えた。

 初回からディレクターを務めるのはアーティストで京都芸術大学教授の椿昇。出品若手アーティストを推薦するアーティスト「アドバイザリーボード」にはボスコ・ソディ、やんツーらを迎えた16組が名を連ねる。今年はアドバイザリーボードと公募により選出された若手アーティスト44組が参加する。ラインナップは以下の通り。※()内は推薦者

石田成弘(池田光弘)/石山未来(薄久保香)/伊藤美優(鬼頭健吾)/内海紗英子(公募)/遠藤文香(ミヤケマイ)/大上巧真(大庭大介)/岡本ビショワビクラムグルン(池田光弘)/ Officell(公募)/カタルシスの岸辺(小谷元彦)/清方(鶴田憲次)/倉知朋之介(Yotta)/Christopher Loden(やんツー)/小西梨絵(大庭大介)/佐藤壮馬(公募)/鮫島ゆい(公募)/志賀耕太(田村友一郎)/品川美香(公募)/德永葵(鶴田憲次)/鳥越愛良(鬼頭健吾)/西垣肇也樹(公募)/西村大樹(公募)/西凌平(椿昇)/花形槙(やんツー)/久村卓(ミヤケマイ)/方圓(Fang Yuan)(公募)/ブルノ・ボテラ(名和晃平)/松岡勇樹(やなぎみわ)/松元悠(伊庭靖子)/丸井花穂(椿昇)/三宅佑紀(伊庭靖子)/宮原野乃実(公募)/森山佐紀(公募)/森夕香(公募)/保良雄(加藤泉)/山田愛(小谷元彦)/山羽春季(公募)/山本和真(薄久保香)/山本将吾(田村友一郎)/吉浦眞琴(やなぎみわ)/米村優人(Yotta)/米山舞(ヤノベケンジ)/廖元溢(Liao Yuan Yi)(鬼頭健吾)/リュ・ジェユン(公募)/劉李杰(Liu Lijie)(公募)

 これまで、京都府京都文化博物館 別館をメイン開場のひとつとしてきた同フェア。今年はここに代わり、京都国立博物館 明治古都館が新たな会場となった。インダストリアルな空間で作品を演出する京都新聞ビル 地下1階はこれまで通り会場として使用。加えて、世界遺産である音羽山 清水寺では、アドバイザリーボードによる展覧会が3月10日まで開催される。フェアと展覧会がハイブリッドに展開される構造だ。

 またAFKでは一昨年から参加アーティストの支援を目的としたアワードも実施しており、今年の「マイナビ ART AWARD」では最優秀賞(賞金100万円)に志賀耕太が、優秀賞には遠藤文香、久村卓、松元悠が選ばれた。これらの作家を含む44組(+アドバイザリーボード)が集う各会場を見ていこう。

授賞式の様子。右二人目から松元悠、志賀耕太、遠藤文香、久村卓 撮影=O Lamlam

京都新聞ビル 地下1階

 AFKの特徴でもある京都新聞ビル 地下1階を使った会場は、印刷工場の雰囲気をそのままに残す空間に、毎回インスタレーションを中心に見応えある展示が展開されてきた。

 今回、アワードの最優秀賞となった志賀もここで作品を見せる。志賀は1998 年東京生まれ。東京藝術大学大学院在籍。都市のなかでアーキテクチャや道具が持つ規則を流用し被虐的に「遊ぶ」パフォーマンスの映像作品や、自らのアクションを中心としたショートフィルムを制作している。

 今回、志賀はロバート・スミッソンの名作である《スパイラル・ジェテイ》をリサーチし、モチーフにした《SPIRAL JETTY MONJA》をつくりあげた。暗い会場に輝くのは、「スパイラルジェティもんじゃ」の文字が書かれた赤提灯。隣の巨大スクリーンには、スミッソンによる同名映像のカメラワークを参照した、もんじゃ焼きをつくる様子が映される。一見おかしみを感じるものであるが、映像を媒介にすることで、画像としてネット上に流通する《スパイラル・ジェッテイ》のスケールと、もんじゃ焼きのスケールが並置されるという巧みさが光る。

展示風景より。手前が志賀耕太《SPIRAL JETTY MONJA》 撮影=顧剣亨

 森美術館私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」(〜3月31日)や銀座メゾンエルメス フォーラムつかの間の停泊者」(〜5月31日)などに参加し、注目を集める保良雄。ここでは、体験を共有する喜びを共通項に、「日食」という天体ショーと「どら焼きをつくるワークショップ」の映像をひとつに合体させた映像作品を見せる。

 また膨大な数のトレーディングカードを煌びやかな「屋台」で販売するカタルシスの岸辺や、可笑しみとともにテクノロジーの問題点を提示する倉知朋之介などにも注目だ。

展示風景より、保良雄のブース 撮影=橋爪勇介
展示風景より、カタルシスの岸辺のブース 撮影=橋爪勇介
展示風景より、倉知朋之介《ラズベリーフィールド》 撮影=橋爪勇介

京都国立博物館 明治古都館

 1897年に「帝国京都博物館」として開館した京都国立博物館の明治古都館。宮内省内匠寮の技師・片山東熊によって設計されたレンガ造りの重厚な建物は重要文化財であり、建築を見るだけでも価値がある場所だ。現在は免震改修などの基本計画を進めるために展示が行われていないこの館に、33作家の作品がインストールされている。会場はこれまでの京都文化博物館会場と同じくドットアーキテクツが手がけており、金網と鉄パイプによる独特の構成となった。今年アワードで優秀賞を受賞した3作家もここで出品している。

京都国立博物館 明治古都館 撮影=橋爪勇介
展示風景より 撮影=顧剣亨

 松元悠は主にリトグラフ技法を用いて多版多色の版画を制作するアーティストであり、法廷画家としての一面も持つ。新聞、テレビ、ウェブなどのマスメディアが報じるニュースを取り上げ、その情報から現地を訪れ、当事者を演じることでニュースの当事者の追体験を試み、それを描く松元。作品は事件性や社会性を内包しながらも、見ただけではそれを判別できないがゆえに、強い印象を与える。今回は、新たな展開ともいえる石版画の作品も発表された。

展示風景より、松元悠のブース 撮影=橋爪勇介

 遠藤文香は主に自然や家畜動物をモチーフに、自然と人間の関係性や境界線を探求し、撮影する行為を通して対象とのつながりや親密さをアニミズム的自然観によって表現している。複数作品によるコンポジションも見どころのひとつだろう。

展示風景より、遠藤文香のブース 撮影=橋爪勇介

 久村卓は、「着られる彫刻」や「座れるレディメイド」など、鑑賞以外の機能を兼ね備えた作品を制作。AFKでは衣服のロゴに刺繍を施し、彫刻に仕立てた作品などが並ぶ。

音羽山 清水寺

 清水寺が会場となるのは、22年以来2回目。誰もが通る仁王門周辺にはヤノベケンジ、Yotta、加藤泉の大作が展示され、観光客の撮影スポットとなっている。

展示風景より 撮影=顧剣亨

 「月の庭」と呼ばれる名庭を有する通常非公開の成就院。ここでは池田光弘、伊庭靖子薄久保香大庭大介鬼頭健吾、ボスコ・ソディ、椿昇、鶴田憲次、名和晃平ミヤケマイやなぎみわ、ヤノベケンジ、やんツーの作品が並ぶ。

 大庭の新作《M》は、光の干渉によって画面上に「虹」のような光を浮かび上がらせており、角度を変えながら見ることで様々な表情を見せる。またやんツーの《不可視の知のためのスケッチ》は、AIを用いて現代の「不可視の神」としてのAIを仏の姿で表出させたものだ。

展示風景より、中央が大庭大介《M》 撮影=顧剣亨
展示風景より、やんツー《不可視の知のためのスケッチ》 撮影=顧剣亨

 経堂では田村友一郎が新作インスタレーション《田村/TAMURA》を発表。能の演目である「田村」と、清水寺境内にある田村堂から着想された作品を、薄暗い光とオリジナルの音楽のなかで堪能してほしい。

展示風景より、田村友一郎《田村/TAMURA》 撮影=顧剣亨
展示風景より、田村友一郎《田村/TAMURA》 撮影=顧剣亨

さらなる進歩を目指すAFK

 回数を重たAFKは存在感を増し、すでに一定の成功を収めているように見える。しかしディレクターの椿は「グローバルなアート界のスタート台にも立っていない」と強調する。

「日本のアート界は海外に対して受け身であり、また文化予算も圧倒的に少ない。マーケットだけが成長してもアートの“植生”は決して豊かにならない。アーティストたちをサバイブさせるため、やるべきことはまだまだある」。椿は来年のAFKで大きな変化を起こすと語った。世界的に見ても意欲的なフレームのこのフェアは、まだまだ歩みを止めないようだ。

編集部

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