6回目の「ARTISTS' FAIR KYOTO」が開幕。定着したアートフェアと展覧会のハイブリッドモデル

アーティストが主体となる京都府主催のアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO」が6年目の開催を迎えた。新会場も加わった今回のハイライトをレポートでお届けする。一般会期は3月4日〜5日。

文=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、宇留野圭ブース

メイン3会場に集う40組の若手アーティスト

 京都の春を告げるアートフェアが、今年も開幕を迎えた。2018年の初回以降、京都府が毎年開催しているアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO」(以下、AFK)だ。

 京都芸術大学でも教鞭を執るアーティスト・椿昇がディレクターとなり、年々育て上げてきたこのフェアは、現役で活躍するアーティストたちがアドバイザリーボードとなり、若手作家を推薦。公募も含め、若手作家たちが飛躍する場として着実に実績を重ねてきた。アートフェアのスタンダードである「ギャラリーブース」というフォーマットを崩し、作家らがそれぞれブースを持ち、作品をプレゼンテーションするシステムを採ってきた。来場者とアーティストとのコミュニケーションを生み出す場として機能してきたと言える。

 またAFKでは、昨年から参加アーティストの支援を目的としたアワードも実施しており、今年の「マイナビ ART AWARD」では最優秀賞(賞金100万円)に宇留野圭が、優秀賞には明石雄、八島良子、山西杏奈、山羽春季が選ばれた。これらの作家を含む40組が集う各会場を見ていこう。

「マイナビ ART AWARD」授賞式より受賞者たち。左から八島良子、明石雄、宇留野圭、山羽春季、山西杏奈 撮影=山神美琴

京都府京都文化博物館 別館

 重厚な赤レンガの京都府京都文化博物館 別館はこれまで同様、平面作品が中心だ。ドットアーキテクツによる金網が特徴的なこの会場は、これまで2フロアで展開されてきたが、今回は1フロアのみとなった。

展示風景より 撮影=顧剣亨

 京都芸術大学大学院の修了展でも注目を集めていた山中雪乃のほか、「みえるもの」と「みえないもの」をつなぎ、あるいは両者の境界を示すことを試みる鮫島ゆいの作品群、虫や動物が生きた証を作品化する井原宏蕗らが存在感を放っている。

展示風景より、山中雪乃ブース
展示風景より、鮫島ゆいブース
展示風景より、井原宏蕗ブース

京都新聞ビル 地下1階

 AFKといえば、京都新聞ビル 地下1階も見逃せない。印刷工場の雰囲気をそのままに残すここでは、毎回インスタレーションを中心に見応えある展示が展開される。

 機械部品の鋳造メーカーに勤めたのち、アーティストに転身した宇留野圭。映画のセットのような建築模型と、そこから発せられるパイプオルガンのような音響、そして人の痕跡を感じさせる「洗面台」などが、現代の不穏さを表象するかのようだ。

 また山羽春季は日本画の画材を使い、踊りをテーマにコマ送りの日本画を生み出している。ピナ・バウシュをはじめとする、様々な実在の動きを描き留めようとする実践は興味深い。

展示風景より、宇留野圭ブース 撮影=顧剣亨
展示風景より、宇留野圭ブース 撮影=顧剣亨
展示風景より、山羽春季ブース 撮影=山神美琴
展示風景より、明石雄ブース 撮影=顧剣亨

渉成園(枳殻邸)

 昨年、清水寺で展開されたアドバイザリーボードたちによる展覧会が、今年は場所を変えて行われる。新会場は、東本願寺の飛地境内地の庭園「渉成園(枳殻邸・きこくてい)」だ。池の周囲では四季折々の花と京都タワーも望め、国の指定名勝として知られてる。ここでは、通常非公開の茶室や書院など8ヶ所で、9組の若手作家と14組のアドバイザリーボードの作品を見ることができる(アドバイザリーボードの展示のみ3月12日まで)。

展示風景より、ヤノベケンジ《SHIP'S CAT(Mofumofu22)》(2022) 撮影=顧剣亨

 枕や布、風船など、柔らかなモチーフを木彫によってつくり出す山西杏奈の作品は、木の重量感を反転させるようなモチーフをあえて選ぶことで、そのギャップが強調されている。その感触を確かめてみたくなるような作品だ。

展示風景より、山西杏奈ブース 撮影=顧剣亨

 尾道の離島・百島で活動する八島良子は、家畜として飼っていた三元豚の雌豚「モモ」をモチーフに、一連のプロジェクト「メメント・モモ(MEMENTO MOMO)」を手がけることで知られている。育て、解体し、食べるという一連のプロセスを作品化する八島。社会の一部である家畜という存在と真摯に向き合う姿勢が強い印象を残す。

展示風景より、八島良子ブース 撮影=顧剣亨

 アドバイザリーボードからは、田村友一郎の新作《裂かれたバスローブ/ Sacred Bathrobe》に注目だ。渉成園から見えるホテル「サンマルタン」に着目した田村は、「SAINT MARTIN HOTEL」のロゴを刺繍した真紅のバスローブを制作。それを真剣によって引き裂いた。これは、ローマ軍に従事していたマルタンが、凍えていた半裸の物乞い(じつはイエス・キリストだった)に自らの赤いマントを剣で半分に裂き、与えたという逸話から着想されている。サン・マルタンがホテル経営者の守護聖人であるということも絡めた、田村らしい作品だ。

展示風景より、田村友一郎《裂かれたバスローブ/ Sacred Bathrobe》(2023) 撮影=顧剣亨
展示風景より、手前は大庭大介《SPECTRUM》(2021) 撮影=顧剣亨
展示風景より、ともに加藤泉《無題》(2021) 撮影=顧剣亨

重視するのはダイレクトなコミュニケーション

 日本のマーケットをグローバルアートマーケットの環境に近づけたいという考えから始まったAFK。もはや日本を代表するアートフェアのひとつと言えるが、いまアジア各国では次々と新たなフェアが立ち上がっている。そうしたなかで、AFKはどのようなスタンスを保持していくのか。ディレクターの椿昇は、こうした質問自体がナンセンスだと話す。「我々は長期的に安定したシステムを築きたいんです。短期的な視線ではない」。こうした言葉が出るのは、椿がアートマーケットの流動性をよく知っているからだろう。

 アーティストたちが会場にいるフェア、という形も変える必然性がないと椿は語る。「作品が“一人歩き”するのは作家が死んでからでいいんです。作品を見るだけでなく、とにかくダイレクトにコミュニケーションしてほしい。AFKはそこを重視していますから」。若手作家が厳しいマーケットの世界に羽ばたく土壌を耕し続けるAFKは、これからも地に足をつけて進んでいくのだろう。

椿昇
東本願寺に設置されたYottaによる《花子》(2011-) 撮影=顧剣亨
サテライト会場(MtK Contemporary Art)の椿昇展 撮影=顧剣亨
サテライト会場(千丸屋京湯葉本店)のたかくらかずき展 撮影=山神美琴

編集部

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