東京・銀座の銀座メゾンエルメスフォーラムで「つかの間の停泊者」展が開幕した。会期は5月31日まで。キュレーションは説田礼子(エルメス財団キュレーター)。
「エコロジー:循環をめぐるダイアローグ」展の第2会期として開催される本グループ展は、森美術館の開館20周年企画展「私たちのエコロジー」の関連企画。参加アーティストには、ニコラ・フロック、ケイト・ニュービー、保良雄、ラファエル・ザルカの4人を迎え、コンテンポラリー・アートというプラットフォームのなかで生成される自然と人間のエネルギーの循環、そして対話の可能性を考察するものとなっている。
フランス出身でパリを拠点に活動するニコラ・フロック(1970〜)は、ダイバーとしての経験を活かしながら、2010年より世界各地の海や河川の水面下の景観を写真に収め続けている。通常気に留めることもない水中の風景から鑑賞者が知ることができるのは、その土地における環境や、土地と人間との関係性と言えるだろう。
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右は、「海の始まり」「インヴィジブル」シリーズ
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オークランド(アオテアロア・ニュージーランド)出身のケイト・ニュービー(1979〜)は、滞在する土地や人々と関係を構築し、インスピレーションを受けながら、サイトスペシフィックな作品を制作。本展では、現在住んでいるテキサスと栃木県益子市で制作したセラミック作品を展示している。
本展への出展にあたり、ニュービーと説田は「自然の素材によるハンドメイド制作=エコロジー、ではない」という考えについて対話を重ねたという。「ソーシャルエコロジーの視点、協働し現地の人や素材と対話すること」の重要性を、ニュービーは作品制作を通じて体現している。
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滋賀県出身でパリと千葉を拠点とする保良雄(1984〜)は、3つのインスタレーションを会場に展開。原発事故により帰還困難区域と認定された福島・大熊町の稲藁でできた和紙のドーム《noise》や、ネパールのアンナプルナ山で見つけた氷が手の上で溶けてゆく様子を撮影した《glacier》、そして19世紀の欧州で天気予報装置・ストームグラスをモチーフとした《cosmos》はすべて並列であり相関関係にある。
「この3つのインスタレーションの共鳴を通じて、自分たちが(自然に)内包される存在であることを認識してほしい」。保良はそのように展示意図について語っている。
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フランス・モンペリエ出身のラファエル・ザルカ(1977〜)は、考古学から科学技術、スケートボードなどのポップカルチャーに関心を寄せながら、幾何学的形態について研究・制作を行う作家だ。幾何学的なパブリックアート作品を滑走するスケートボーダーたちを写真に収めたシリーズ「Riding Modern Art」は、作品の形状やダイナミズムを可視化させており、会場には、ポスターや映像作品、組み立て式の彫刻作品として展開されている。
さらに、ザルカによる「斜方立方八面体」の研究に関する代表作も展示。ザルカの研究テーマはどのような立ち位置で鑑賞者にアプローチを仕掛けてくるのか。本展において、興味深いポイントのひとつとも言えるだろう。
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開幕に際し説田は、「エコロジーというと速効性や結果、意味を求められがちな風潮があり、アートの文脈にある謎や対象について熟考するというプロセスが置き去りとなりやすい。本展はそこのバランスを大切にキュレーションを行った」とも語っている。
なお、会期中には関連イベントとして複数回トークセッションが開催される予定となっている。詳細は公式ウェブサイトを確認のうえ、自身の関心にあわせて参加してみてほしい。