目指すは文化的装置。「ARTISTS' FAIR KYOTO 2022」が開幕

アーティストが主体となる独自のアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO」が今年、5回目の開催を迎えた。新たな会場も加わった今回のハイライトをレポートでお届けする。会期は3月5日〜6日(清水寺会場は〜3月13日)。

展示風景より 撮影=岡はるか

メインの2会場に集う若手アーティストたち

 次世代のアーティストが世に羽ばたくきっかけづくり、また来場者とアーティストとのコミュニケーションを生み出す場として機能してきた京都のアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO」が今年、5回目の開催を迎えた。メイン会場となるのは重要文化財・京都府京都文化博物館 別館と、独特な雰囲気を持つ京都新聞ビル地下1階。

 ARTISTS' FAIR KYOTOの特徴は、第一線で活躍するアーティストたちが「アドバイザリーボード」となり、若手アーティストを推薦するシステムだ。今年は大庭大介、加藤泉、鬼頭健吾、塩田千春、椿昇、名和晃平、宮島達男、ヤノベケンジら17組が名を連ね、45組のアーティストが選出された。

京都府京都文化博物館 別館

 京都府京都文化博物館 別館はペインティングなど平面作品が中心。会場デザインはこれまで同様、ドットアーキテクツが手がける。

京都府京都文化博物館 別館
京都府京都文化博物館 別館展示風景より 撮影=高橋保世

 回数を重ねるごとにレベルが上がっているこの会場。なかでも、デジタル画像の保存をテーマにフリー素材などを石にプリントする星拳五、地元の歴史を個人的な記憶を着想源に人物がいる状況を描くミシオ、入れ子状のモチーフを平面のなかにまとめあげた山﨑愛彦らが注目株だ。

京都府京都文化博物館 別館の展示風景より、星拳五の作品群
京都府京都文化博物館 別館の展示風景より、ミシオの作品群
京都府京都文化博物館 別館の展示風景より、山﨑愛彦の作品群
京都府京都文化博物館 別館の展示風景より
京都府京都文化博物館 別館の展示風景より

京都新聞ビル地下1階

 いっぽう、京都新聞ビル地下1階には巨大なインスタレーションが中心の、見応えある空間が広がっている。

京都新聞ビル地下1階 撮影=岡はるか

 IKEAで買った観葉植物とその肖像画を組み合わせた作品をインスタレーションとして見せる石毛健太。IKEAのバッグと人工照明で育つ植物を、現代人を取り巻く状況とリンクさせる。 

京都新聞ビル地下1階の展示風景より、石毛健太の作品群

 倉敷安耶は、偏見にさらされるセックスワーカーたちのイメージを、悲劇的な結末を迎えながら「美しいもの」としていまなお多くの人々に親しまれる『ハムレット』のオフィーリアや、その姿を描いてきた過去の絵画に重ねた。

京都新聞ビル地下1階の展示風景より、倉敷安耶の作品群

 会場でも一際目を引く巨大な「家」は油野愛子の作品だ。AIによって紡がれた文章のなかから比較的単純なものを抽出し、それらを家の壁をくり抜くかたちで見せる。内部から照射された光が、その言葉たちを神々しいもののように輝かせる。いっぽう、内部には身体の一部を思わせるブロンズが潜んでいる。

京都新聞ビル地下1階の展示風景より、油野愛子《The House》
京都新聞ビル地下1階の展示風景より、油野愛子《The Parts》

清水寺での特別展覧会

 今年は新たな試みとして、アドバイザリーボードのみの展示企画が開催されることにも注目したい。

 会場となるのは、世界遺産・清水寺。西門、仁王門、経堂(重要文化財)、成就院(一般非公開)の4ヶ所。西門ではヤノベケンジの《KOMAINU-Guardian Beats-》が鎮座し、仁王門ではYottaによる巨大なコケシ《花子》が視線を集める。

清水寺の展示風景より、ヤノベケンジ《KOMAINU-Guardian Beats-》
清水寺の展示風景より、Yotta《花子》

 経堂では宮島達男がパフォーマンスの映像作品を展示。重要文化財で通常は一般非公開の成就院では、薄九保香や大庭大介、加藤泉、名和晃平ら11組の作品を見ることができる。

清水寺の展示風景より、宮島達男《Counter Voice in the Water at Fukushima》
清水寺の展示風景より、手前が大庭大介《M》
清水寺の展示風景より、手前が井口皓太《空の時計 / Blank Clocks》
清水寺の展示風景より、名和晃平《PixCell-Vulture》 撮影=顧剣亨

 なお、今回も京都の街中でサテライト展示が実施。千丸屋京湯葉本店、千總ギャラリー、藤井大丸、Artist-in-Residence 賀茂なす、ygion、mtk+、COCON KARASUMAの各会場で、それぞれの会場にあわせた個展・グループ展が開催される。各会場で会期が異なるので、詳細は公式サイトで確認してほしい。

経済と教育の両輪を

 今回のフェアにおける大きな変化は、若手批評家育成プロジェクト「歴史・批評・芸術」が始まったことだ。年に1〜2回、ARTISTS' FAIR KYOTO出身の若手アーティストを選定し、そのアーティストに合わせた批評家を検討・選定。批評の執筆だけでなく、書籍化もするという。

 また昨年に続き、参加アーティストを支援することを目的としたアワードも実施。最優秀賞(賞金100万円)にはGoh Uozumiが、優秀賞には岩瀬海とソー・ソウエンが選ばれた。

Goh Uozumiのブース 撮影=高橋保世

 作品販売だけでなく、こうした批評やアワードなど幅広いプログラムを展開するフェアは日本では珍しいと言えるだろう。ディレクターの椿は「経済と教育の両輪が必要」だとしつつ、「作品というのは、批評があって初めて歴史化される。そんな単純なこともほとんどの日本の美術関係者は理解していない。批評家育成は今後10年間かけてやっていく」と意気込みを見せる。

椿昇

 アートを購入する層はコロナ以降、確実に広がりを見せており、ARTISTS' FAIR KYOTOの注目度も高まるいっぽうだ。企業からのフェアへの寄付を募りやすくするため、ふるさと納税を活用した制度も始まり、運営にも安定感が見える。しかし椿は、日本と世界のアート界の距離は「まだまだ遠い」と危機感を抱いており、「上海やパリと肩を並べるためには、工夫を重ねてあらゆることをやっていきたい」と話す。

 「コロナ後、京都を文化として世界的に発信力のある都市にするため、いまはまだインフラ整備の段階」。見つめるのはその先の未来だ。東京ではなく、京都から世界に挑む「ARTISTS' FAIR KYOTO」は、たんなるアートフェアという枠組みを超えた存在に変わり始めている。

編集部

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