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2024.2.17

「美術家たちの沿線物語 小田急線篇」(世田谷美術館)開幕レポート。美術家たちの目で見る沿線の物語

世田谷美術館で「美術家たちの沿線物語 小田急線篇」がスタート。「京王線・井の頭線篇」も同時開催中となっている。どちらも会期は4月7日まで。

文・写真=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、荒木経惟『東京日和』(一部、1992)
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 東京の世田谷美術館で、「美術家たちの沿線物語 小田急線篇」がスタートした。会期は4月7日まで。

 「美術家たちの沿線物語」は、世田谷を走る私鉄と沿線ゆかりの美術家たちを通じて、「世田谷の美術」を新たな視点で紐解くシリーズ企画だ。「田園都市線・世田谷線篇」(2020)、「大井町線・目黒線・東横線篇」(2022)につづき、現在同時開催中の「京王線・井の頭線篇」とあわせ、本展にて完結篇となる。

展示風景より、手前は「小田原急行鉄道沿線名所図絵」(1927)

 1927年に新宿~小田原間で開通した小田急小田原線は、関東発の長距離高速電気鉄道であり、映画『東京行進曲』(1929)の主題歌として歌われるなどして一躍有名となる。世田谷区内沿線では街づくりが始まり、戦後の復興とともに宅地化が進んでいった。

 成城学園前駅から喜多見駅周辺を取り上げる2章では、陶芸家・富本憲吉による自分の子供のための学習机と椅子や、宅地開発にあたり建設された朝日住宅の模型のほか、成城に住んでいた作家や美術家らによる作品を展示。当時文化的な土地柄が形成されていたことがうかがえる。

展示風景より、「朝日住宅2号型 1/20建築模型」
展示風景より、手前は横尾忠則《青い沈黙》(1986)

 成城の南には映画撮影所である東宝スタジオも位置する。建設後は監督や俳優も移り住んだことから、華やかなイメージが街にもたらされたのだという。会場では、批評家・瀧口修造のスクリプトの仕事のほか、黒澤明による『七人の侍』の直筆スケッチや映画『ゴジラ』の絵コンテ、成瀬巳喜男監督作品の美術監督を務めた中古智(1912-1994)の『浮雲』のセットスケッチなども展示されている。

展示風景より、左から「映画『ゴジラ』ポスター(復刻版)」(1954)、「映画『七人の侍』ポスター」(1954)
展示風景より、「映画『ゴジラ』絵コンテ」など

 3章では祖師ヶ谷大蔵駅から千歳船橋駅周辺を取り上げ、日本画家・山口蓬春や画家・福沢一郎などの作品を展示。ほかにも、かつて同地に構えられた円谷プロダクションの資料として「ウルトラマンタロウ」の撮影小道具も紹介されている。

展示風景より

 経堂駅から豪徳寺駅周辺を紹介する4章では、そこに住んでいた数多くの美術家によって結成された「白と黒の会」について掘り下げている。さらに、豪徳寺駅から小田急線に乗り、亡き妻・陽子との思い出が残る谷中へ出かける様子が写し出されている写真家・荒木経惟による『東京日和』も展示されている。

展示風景より
展示風景より、荒木経惟『東京日和』(1992)

 梅ヶ丘駅から世田谷代田駅周辺を取り上げる5章では、作曲家・武満徹や瀧口修造らによるインタージャンルな創作集団「実験工房」や荻原朔美らによる「ウメスタ」の活動を紹介。ライブハウスや劇場などで賑わう下北沢駅や東北沢駅周辺を扱う6章では、長年駅前に事務所を構えていた写真家・淺井愼平による著名人の写真も展示されている。

展示風景より
展示風景より

 最終章では、代々木上原駅から、多くの人々が交わる新宿駅までを取り上げている。1923年関東大震災の復興を機にめざましい発展を遂げた新宿は、ほてい屋や伊勢丹、三越といったデパートの建設や、小田急を含む鉄道網の発達により一大商業地へと発展を遂げた。その後、新宿駅西口には建築家・坂倉準三による小田急百貨店や、日本設計による京王プラザホテル、丹下健三による東京都庁舎などが立ち並ぶこととなった。会場では、荒木経惟、高梨豊、奈良原一高らがとらえた写真作品から、当時の新宿の発展の様子や人々の喧騒をうかがい知ることができるだろう。

展示風景より、左から荒木経惟《冬へ》(1990)、高梨豊《新宿》(1987)

 鑑賞後、いつもとは違った風景を車窓から見せてくれる本展。2階展示室では同シリーズ企画「美術家たちの沿線物語 京王線・井の頭線篇」も同時開催中(〜4月7日)。荒木経惟や日本画家・片岡球子らのコレクションのほか、特別出品として画家・五木田智央などの作品も展示されているため、あわせて鑑賞いただきたい。