1960年代以降のデザイン界において、世界的に高い評価を受けたデザイナー・倉俣史朗(1934〜1991)。没後30年を超えて、あらためてその人柄と作品を検証することで、その独自の詩情あふれるデザインを読み解き直す展覧会「倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙」が東京都世田谷区の世田谷美術館で開催される。会期は11月18日〜2024年1月28日。
倉俣は1934年東京生まれ。株式会社三愛などを経て65年に独立すると、次々と話題となる店舗デザインを発表し、同時代の美術家とも親しく交流した。80年以降はイタリアのデザイン運動「メンフィス」に参加したことでも知られている。
富山県美術館所蔵の椅子《ミス・ブランチ》(1988)に代表されるように、倉俣は従来の家具やインテリアデザインでは用いられていなかったアクリル、ガラス、建材用のアルミなどの素材を利用。そこに独自の詩情を乗せたデザインは、とくに1970年代以降に世界的な注目を集めた。しかし、キャリアの絶頂である91年に56歳という若さで突如この世を去ることとなる。
没後も比類ないデザイナーとして評価はされているものの、国内美術館での紹介は多いとは言えない。没後5年に開催された原美術館の「倉俣史朗の世界」(1996〜)から始まり、世界巡回をした回顧展の後は、21_21DESIGN SIGHTでの「倉俣史朗とエットレ・ソットサス」(2011)、埼玉県立近代美術館の「浮遊するデザイン―倉俣史朗とともに」(2013)以降、大きな展覧会は開かれていなかった。
本展は、作家の内面やその思考の背景による「倉俣史朗自身」をひとつの軸としつつ、その「倉俣史朗自身」と紐づけながら初期から晩年までの作品を紹介することを試みるもの。会場は、倉俣の三愛所属時代の仕事を紹介するプロローグに始まり、テーマごとに仕事を取り上げる4つのパート、そしてエピローグでは作家のスケッチやいままで公開されてこなかった夢日記や言葉をまとめて紹介。途中には、「倉俣史朗の私空間」と称して、愛蔵の書籍とレコードも展示され、倉俣の実像にせまる内容となる。
2021年には、アジア最大級のヴィジュアル・カルチャー博物館として香港に誕生したM+に、倉俣がインテリアデザインを手がけた新橋の寿司店「きよ友」がまるごと移設されたことでも話題になった。本展では、作家の世界的評価についても再確認できる場となるだろう。