ART WIKI

実験工房

Jikken Kobo(Experimental Workshop)

 1951年に発足し、インターメディア的な製作・発表スタイルや、電子工学的なテクノロジーの導入による拡張的な表現を展開したことで知られる、美術家と音楽家を中心としたメンバーからなる総合芸術グループ。造形部門、音楽部門は、当初それぞれの経緯で人脈が形成されていた。いっぽうに「モダンアート夏期講習会」「トリダン」「アヴァンギャルド芸術研究会」「世紀の会」「プボワール」といった集会・グループへの参加をともにしていた北代省三、山口勝弘、福島秀子がおり、他方に合唱サークルへの参加を通じて知己となった鈴木博義、武満徹、福島和夫(秀子の弟)がいた。

 GHQが日比谷に開設し、当時海外の美術・音楽関連の資料が視聴・閲覧できる数少ない場所となっていたCIEライブラリーは、山口、武満、福島姉弟、秋山邦晴、湯浅譲二、そして瀧口修造といった面々が頻繁に活用しており、これが美術グループと音楽グループの接触を媒介することとなった。北代、山口、武満、鈴木らは、福島姉弟の自宅に集うようになり、また同じ頃、秋山や湯浅も周囲に加わっている。これらのメンバーが51年、読売新聞社主催による「ピカソ展」(日本橋高島屋)の記念行事「ピカソ祭」のプログラムとして上演が企画された、バレエ『生きる悦び』の舞台演出を手がけることとなる。

 瀧口修造が読売新聞文化部の海藤日出男に推薦したことがその経緯だが、この製作に際し、グループは瀧口によって「実験工房」と命名された。結成には舞台照明家の今井直次、エンジニアの山崎英夫も加わっている。52年に駒井哲郎、園田高弘が、53年に大辻清司、佐藤慶次郎が参加。演奏とステージ構成の両面的なアプローチ、『アサヒグラフ』コラム欄のタイトルカット連載「APN」における造形と写真のコラボレーション、スライド映写機とテープレコーダーを連動させた装置「オートスライド」の導入、造形性を前景化した映像表現、といった数々の様相は、複数の表現領域の交差を体現するものである。また、北代のモビールや、偏光ガラスによる動的な視覚効果を組み込んだ山口の「ヴィトリーヌ」シリーズは、旋回的な運動性や操作的な空間概念、知覚の流動性を強調するものであり、テープレコーダーやオートスライドの使用、あるいはテープ音楽による演奏者のいない演奏会(「ミュージック・コンクレート/電子音楽 オーディション」[56年])などに示される機械的な自動性・反復性とも呼応しつつ、実験工房における拡張的な視聴覚環境への関心を裏づけている。

 57年8月の「実験工房のメンバーによるサマー・エクスヒビション」(新宿・風月堂)を最後に、グループとしての活動は終息。その後メンバーは個々に、草月アートセンター(58年設立)の活動、「フルックス週間」(65年)、「空間から環境へ」(66年)、「クロス・トーク/インターメディア」(69年)といったイヴェントや展覧会、70年の大阪万博などに関与し、アートとテクノロジーの接続やインターメディア的な実践を展開していった。

文=勝俣涼

参考文献
『実験工房展――戦後芸術を切り拓く』(読売新聞社・美術館連絡協議会、2013)