東京・六本木の泉屋博古館東京で企画展「うるしとともに― くらしのなかの漆芸美」が開幕した。会期は2月25日まで。担当学芸員は竹嶋康平(漆、泉屋博古館学芸員)、森下愛子(染付大皿、泉屋博古館東京主任学芸員)。
現在の日常生活において、我々が漆芸品を目にする機会はどのくらいあるだろうか。もしかすると美術館や工芸館で展示されているものを見ることのほうが多いかもしれない。館長・野地耕一郎は、本展の目的を「漆の再発見」にある、と語る。樹液である漆は、接着や修復、被膜など様々な用途があり、とくに東アジアではこれまで連綿と活用されてきた。会場では、様々な場面で使用されてきた住友コレクションの漆芸品の数々から、その魅力が3つの展示室にわたって紹介されている。
第1展示室では、おもに「食事」「宴」をテーマとした漆芸品を紹介。住友の宴を彩った会席道具が所狭しと並べられている(30名分の膳から10名分を展示)。その量と漆芸品ならではの艶の美しさには、思わず圧倒されることだろう。
また、漆芸品ごとに描かれた絵を読み解いていくことも楽しみ方のひとつと言える。例えば、《扇面謡曲画蒔絵》の丸盆には、能の謡曲から着想を得たデザインがそれぞれに施されている。盆だけで20種類、さらには膳にも異なる謡曲が描かれており、発注者であった住友春翠(すみとも・しゅんすい)が能楽を好んでいたことによる計らいだろう。
行楽や物見遊山のために使用された食事や酒を持ち運ぶ提重箱(ピクニック用)も絢爛な仕上がりだ。
第2展示室では、茶の湯や香道、能楽といった日本の伝統文化のなかで用いられてきた漆芸品が紹介されている。とくに香炉や古典教養を背景とした組香で使用される札などは小さな品にもかかわらず、非常に細やかに意匠が描き出されており、その匠の技にも注目してほしい。
第3展示室では、漆芸における様々な技法を切り口に工芸品を紹介している。接着剤や防腐のためのコーティング剤として独自の文化が形成されてきた漆芸は、彫漆や螺鈿、蒔絵といったその特徴を活かした多様な表現を生み出してきた。漆の特徴とそこから派生した技法を知ることで、より一層鑑賞を楽しむことができるようになるだろう。
また、近年同館に寄贈された瀬川竹生コレクションの染付大皿の優品も合わせて展示されている。受贈後初めての公開となっているため、この機会にぜひチェックしてほしい。
なお、館長の野地は1月1日に発生した令和6年能登半島地震に関して「非常に驚いた。伝統工芸である『輪島塗』の作家や工房にも被害が出ている。なにか協力ができれば」とその思いを述べた。この災害を受け、泉屋博古館東京は館内に募金箱を設置。公益社団法人 日本工芸会が支援金の受付を開始したことによるもので、集まった義援金は伝統技術の保存・継承、被災された工芸作家の支援に活用されるという(募金箱の設置は会期終了の2月25日まで)。