鑑賞力UPを目指そう。アートの見方を鍛える指南書10冊

ここ数年、数多く刊行されている美術鑑賞の指南書。今回は、2023年に出版された書籍のなかからアートライター・齋藤久嗣が10冊を厳選して紹介。一気読みはいかが?

文=齋藤久嗣

 ここ数年、アートファンには嬉しいことに、美術鑑賞の優れた指南書が数多く刊行されています。とくに2023年は大豊作でした。西洋美術をはじめ、日本美術、現代アート、彫刻、建築など、各分野で秀作が揃いました。そこで今回は、あなたの鑑賞力を引き上げてくれるアート本をピックアップ。2023年度に出版された書籍の中から10冊を厳選してご紹介します。

1. カラー版『名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで』&カラー版『名画を見る眼Ⅱ 印象派からピカソまで』高階秀爾著(岩波書店)

 1969年の刊行以来、50年以上読みつがれてきた西洋美術史の入門書における草分け的な存在です。ルネサンスからピカソまで約500年に及ぶ西洋絵画の歴史を、Ⅰ、Ⅱ巻あわせて29枚の名画をクローズアップしながら詳説しています。

 各章では1枚の名画が描かれた経緯や歴史的背景、画家のエピソードはもちろん、絵の中に描かれたモチーフや色彩、筆遣いまで、その魅力や鑑賞ポイントがバランス良く解説されています。加えて高階氏の文体には不思議な魅力があります。ロジカルで理知的な書きぶりのなかに、時折ふいに詩的な表現が顔を覗かせ、まるで小説を読んでいるかのような心地よい読後感が得られるでしょう。

 本書は過去何度か復刻・改訂されてきましたが、2023年5月、両巻あわせて計122点の図版が増補され、29枚の名画がすべてカラー化された「カラー版」として強力なバージョンアップを遂げました。

 西洋絵画の見方を本格的に学びたいと思ったら、まず第一にオススメしたいレジェンド級の名著です。

2. 『色から読みとく絵画―画家たちのアートセラピー』末永蒼生、江崎泰子著(亜紀書房)

 絵画を読み解くには様々な方法がありますが、本書は色彩心理学やアートセラピーの観点から古今東西の様々な絵画18作品を掘り下げて解説したユニークな1冊です。

 本書を著した2人の著者は、ともに30年以上アートセラピーに関わってきた専門家です。人はみな、心の中に苦しみや孤独など満たされない思いを抱えながら生きていきますが、アートセラピーでは、絵を描くことで心を癒やし、抑圧された感情を解放します。同様に、画家にとって描くことは、ある意味癒やしのプロセスだったのかもしれません。あるいは、心の奥底に人一倍抱えてしまった苦悩と折り合いをつけるには、描き続けるしかなかったのでしょう。彼らは生きるために表現する必要があったわけです。

 著者は、色彩、筆遣い、モチーフなど、カンヴァスに残されたそれぞれの画家の特徴的な表現のなかに、彼らの人生を読み解くための手がかりを見出しました。たとえば、本書では、ユトリロが執拗に用いた「白」、イヴ・クラインがこだわった「青」、ムンクが晩年まで絵の中に描き入れた「影」、フリーダ・カーロが痛々しい姿で描き続けた「自画像」など、各画家がこだわった表現技法が取り上げられます。そして、画家たちがなぜその表現に固執しなければならなかったのかを、彼らが歩んだ人生ドラマを紐解くことで明らかにしていこうと試みています。

 本書は、絵の解釈は、いわゆる美術史に沿ったアカデミックな見方以外にも、魅力的な方法論があるのだ、と教えてくれます。一味違う新鮮な鑑賞方法を知りたいなら、手にとってみてはいかがでしょうか。

3. 『問題解決のための名画読解』エイミー・E・ハーマン著、野村真依子翻訳(早川書房)

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