山梨・北杜市の中村キース・ヘリング美術館で、スタイリスのパトリシア・フィールド(1942〜)が蒐集したコレクションを紹介する展覧会「ハウス・オブ・フィールド」展が開幕した。会期は2024年5月6日まで。
フィールドは世界的なスタイリストとして知られ、『プラダを着た悪魔』(2006)、『セックス・アンド・ザ・シティ』(1998〜2004)、『エミリー、パリへ行く』(2020)といった映画やドラマの衣装デザインを手がけてきた。
ニューヨーク大学で政治学を学んだフィールドは、1966年にニューヨークにブティックを出店、以降50年にわたり経営し、そこを拠点に数々のアーティストを支えてきた。2016年、惜しまれながらブティックはクローズ。それを契機に、パトリシアが集めた作品190点ほどが同館に収蔵された。本展では、そのなかから日本初公開作品を含むペインティングや写真、オブジェなど140点近くが展示されている。
展覧会名となっている「ハウス・オブ・フィールド」とは、パトリシアを中心としたコミュニティのこと。所属するスタッフやデザイナー、アーティスト、美容専門家、彼女を慕う人々によるコミュニティで、パトリシアは母親のような存在としてその中心にいた。本展で展示されている作品は、パトリシアが購入したり贈られたりしたものであり、それらはブティックの壁やショーウィンドウ、試着室の扉を彩っていたという。
本展では、こうしたコミュニティのなかでパトリシアに見出された、まだ広く世に知られていない作家たちの作品に注目したい。例えば、パトリシアの制作したビジュアルに頻出する作家・マーティーン。板やキャンバスにペイントされた、セクシュアルな要素を印象的な線によって誇張したその作品群は、男女を問わない性の交歓を、ボジティブに見せている。
ポール・チェルスタッドは、パトリシアのファッションショーのための巨大壁画を制作していた。デイヴィッド・クローネンバーグ監督の映画『エム・バタフライ』でも描かれた、女性としてフランス大使館員と結婚し、男性であることを隠し続けた中国のスパイ、シー・ペイ・プーの肖像などは、「ハウス・オブ・フィールド」の当時の興味の方向が伺えて興味深い。
クレイグ・コールマンは、キース・へリングと同時代に活躍し、主に拾った材料によって膨大な数の絵画や彫刻を制作した作家だ。展示されている《無題》(1994)の木に彫刻された顔の数々は独特の風格を漂わせており、いまあらためて注目すべき作家であることを感じられる。
キューバの民間信仰・サンテリアやカトリックなどの宗教的な図像を参考にペイントを制作するリチャード・アルバレス。パトリシアのキッチンに飾ってあったというガラスやグリッターを使用した作品《レス=ビヨンド》(2008)は、華やかながらも緻密な構築力を宿す。
会場には、様々な作家が制作したパトリシアのポートレートを集めた壁面もある。作家ごとに表現した多様な彼女の姿が、彼女がいかに慕われてきたのかがわかるだろう。
ニューヨークを拠点に、50年ものあいだ店を構えてその変遷を見つめてきたパトリシア。彼女が「ハウス」の仲間として同時代をともにした数々の作家を一堂に展示する、画期的な展覧会だ。